なんちゃって黄龍妖魔學園紀〜オマケ編〜

オマケ編※第一話の昼間辺りだと思って下さーい☆符咒封録を知らない人はご注意※


さて、転校初日。六年前にも受けたような質問責めから漸く解放された頃、同級生となる八千穂が
緋勇に話しかけてきてくれた。しかし初対面な筈なのに緋勇はどうもこの少女に見覚えがある。
暫し考えた後、思い出したのかポンと手を打ってこう言った。

「あ、“夢見る少女”さん。」

「…え? 何それ…?」

「その節はどうも…。」

と、言いかけたところで優鉢羅から小声で突っ込み(@天井裏)が入る。

「…符咒封録じゃないんだ。カード名でものを言うな。」

ハッと我に返る緋勇。

「い、いやごめん。八千穂さん…だっけ?」

慌てて取り繕う緋勇。

「と、ところで八千穂さんは何か俺に用かな?」

「あっ、そうそう。あのね、緋勇くん、転校したてで色々分からない事が多いでしょ?
だから學園内を案内してあげようと思って。」

「やあ、それは助かるよ。ありがとう、八千穂さん。」

「えへへ…、どういたしまして。あ、“さん”付けなんか要らないからさ、八千穂で良いよっ。」

何か小蒔を思い出す子だなあ、と思いながら八千穂と校内を移動する緋勇。すると突然後ろから

「ひ、緋勇さん…?」

と聞こえたので後ろを振り向くと

「…く、九龍!?」

そこには義理の従弟、九龍の姿があった。

「緋勇さぁーん!」

驚きの余り固まる緋勇。それに飛び付く九龍。

「…えーと、知り合い?」

驚く八千穂。

「うん、まあ、従弟なんだけど…。どうして此処に?」

「どうしてって俺が訊きたいですよ、緋勇さんがロゼッタ協会に入ってこの學園に来たっていうからー!」

…確かトレジャーハンターって秘密だからあんまりバラしちゃあいけないよってあの医者が
言ってなかったっけ? と首を捻ったがすぐに合点がいく。そういえば九龍は一周目主人公だった。

「…で、今此処に九龍が居るって事は…。」

「緋勇さん! イエーイ、W主人公☆ですよ! 今日から同じクラスクラス!」

「ああ、そうなんだ。」

かなり無茶苦茶な設定だが、緋勇はアタマに超が付く程従弟バカなので、全く突っ込まない。
その時担任の雛川がパタパタと駆けてきた。

「九龍くん! まだ転校手続きが全部終わってないのに急に出て行っちゃ駄目でしょ!」

「ひ、緋勇さん! 緋勇さーん!」

そのまま九龍をズルズルと引っ張っていってしまった。

「また後でな〜。」

それを笑顔で見送る緋勇。

「いやあ、可愛い子だろ? あの子は昔っから可愛くてね。」

「…へえ。」

ホクホク笑顔で従弟を自慢する緋勇、そしてちょっと引く八千穂。そんな感じで二人はまた歩き始めた。


暫らく歩く事数分。ふと、窓際に髪の長い少女が一人たたずんでいる。

「あっ、白岐さんだ!」

「あっ、“失われし少女”さんだ!」

殆ど同時に叫ぶ二人。しかし緋勇の言った台詞はまたもや符咒封録のカード名だ。
そこにスパーン! と小気味良い音をたてて緋勇の後頭部に優鉢羅の突っ込みが決まる。
余りの突っ込みの鋭さに思わずよろけてしまった。

「ど、どしたの!? 緋勇くんっ。」

急によろけた緋勇に驚く八千穂。結局その間に白岐は去って行ってしまった。

「あーあ…、行っちゃった…。白岐さんとは一度ちゃんと話してみたいと思ってるんだけどなぁ…。」

「あーあ…、また言っちゃった…。何か思い浮かぶと口にしないといられないタイプなんだよね、俺…。」

再度歩き出す二人。最後に屋上へと辿り着いた。
そこで昼食談義をしていると、例によって聞こえてくる奴の声。

「ふぁ〜あ…、転校生ごときで盛り上がって、おめでたい女だ。」

「あっ、皆守くん!」

「あっ、“微睡みの少年”君!!」

『…はぁ?』

ハモる八千穂と皆守。緋勇は点目になっている二人なぞ気にせず話を続ける。

「どうもこの節はお世話になりまして…。君のお陰で優鉢羅戦なんかノーダメージでクリア出来ました。」

「…えーと、皆守くん、緋勇くんと知り合い…?」

「しょ、初対面だっつの。こんな奴知るか!」

「嫌だな、だって符咒封録ではあんなに…、ぐはっ!」

突然噎せる緋勇。

「ひ、緋勇くん!?」

緋勇はそのまま引きずられる形で屋上を後にした。

「…お、おい…って、…行っちまった…。一体何だったんだ…。」

「…というか、今の人、誰…?」

残された二人はただ呆然とするばかりだった。




「いきなり何すんだよ、優鉢羅!!」

優鉢羅に連れてこられた校舎裏にて、未だ噎せるのか涙目で抗議する緋勇。先程の『ぐはっ!』は優鉢羅に
首根っこを掴まれた際の声だった。

「…貴様は未だに現実世界に戻れてないみたいだな? もうあれから6年だぞ、氏神。
しかも何で俺を引き合いに出すかな。」

「だって…。」

「だってじゃない。初対面の人間にあれでは失礼だろう。」

「そういう優鉢羅との初対面だって最悪だったじゃないか。それに未だに俺の事を“氏神”って、
いい加減名前覚えろよ。」

「やかましい。兎に角、もう一度行って二人に謝って来い。」

「…何だか優鉢羅、お父さんみたいだなぁ。」

「…俺はこんな息子なんか要らん。」

「しかしさぁ、ここまで揃ってると後“心理士”とか“墓守”も居ると思わないか…?」

「ごたごた言ってないで、とっとと行けっ。」

「ちぇっ。」

緋勇を見送りながら、今後の展開が激しく不安になる優鉢羅であった…。

オマケ2〜※何となく夏真っ盛りだと思って下さーい。時期的におかしいとか突っ込んじゃ駄目!〜

「……肝試し?」

「うん、そう。」

それは夏真っ盛りな夜。天香學園に訳あって厄介になっている緋勇がサラッと言った。

「今度仲間内で何かやりたいねー、どうせなら夏らしく行きたいねー……って話してさ。
俺ねー、立案者だから。ちょっと考えたんだけど、そしたらこうなってさ。」

やや考えた後、優鉢羅がボソッと言った。

「……この學園で、今更肝試しにビビる様な奴なぞ居るのか。というか少なくともお前の仲間はビビらないぞ。」

「いやほら、其処は発想の逆転ですよ。仲間の事を熟知しているからこそ! 脅かし甲斐があるってもんで!」

「……つまりは仲間をターゲットにして楽しむと。」

「人聞きの悪い。これはスキンシップ! 言い換えればお兄さん(←年齢的に)からの可愛い後輩への愛の鞭!」

「……。」


くだらねー。


優鉢羅は一人思ったが、別段自分が参加するわけでもなし、特に突っ込まずにいた。

「まあ、頑張れ。」

「おうよ!」

「……因みに、何処でやるんだ? その肝試しとやらは。」

この學園は確か放課後以降は進入禁止だった筈。そう思い尋ねてみた。

「あ、えーとね、最初は遺跡でやろうかと思ったんだけど。」

「化人と戦いつつ、いつ驚かされるかも分からないから別な意味で気を張ってろって事か。
どれだけ肉体的にも精神的にも優しくない肝試しなんだ。」

と、すぐさま突っ込んでみた。

「だよねぇ〜。そう言われると思ったんで、學園一周とかで良いんじゃないかなーって、……適当に。」

適当で良いのか、適当で。

そう突っ込みたかったが、此処で馬鹿げたやり取りをしていても話が進む訳でもない。
ぶっちゃけ優鉢羅からは興味が大分薄れていた。

「まあ、頑張れ。」

「優鉢羅それ二回目〜。実は飽きてきただろ。仕方ないなぁ。……さて、今回の件に関して、実は協力者が居ます。」

「……?」

「おーい、九龍ー。」

「はーい、緋勇さーん、お邪魔します! よっ、蛇!」

「……一週目主人公。反則じゃないか、これ? というかこいつだったら仲間達の弱点だろうが何だろうが
嫌なとこネチネチ突いてきそうだ。」

「嫌だなぁ、優鉢羅。九龍はそんな子じゃないって。」

と、従弟馬鹿な緋勇がほわわんと笑顔を見せる。

「出たよ、久しぶりの馬鹿顔。」

「ちょ、優鉢羅、酷っ!」


〜数分後〜


「――で、計画的にどうしよっか、九龍。」

と、緋勇が協力者である九龍に意見を仰ぐ。

「ふっふっふ、緋勇さん。敵を騙すには先ず味方から……。つまり悪魔で脅かし役は他の人という事で、
俺は何食わぬ顔で参加者を装うんです!」

「おおー! そして隙を突いて……バア!! …だね!? 九龍、頭良い!」

「そうです、緋勇さん。そして更に。」

※以下一部九龍の妄想↓

「鎌治…。ちょっと寒くないか?」

「大丈夫かい? はっちゃん……。そんなに真っ青で……。…うわっ!」

「うわぁ!」

「……ふぅ。びっくりしたね、大丈夫?」

「……か、鎌治……。手、繋いでて良いか……?」

「……えっ? は、はっちゃん…。」(トキメキの効果音付き)



……なーんちゃって!! みたいな! そんなちょい乙女な展開を希望します!!」

「……く、九龍?」

「俺的にはこんなシチュエーションも美味しいと思うんですよね! いつもは怖いモノなし! って顔してるのに
実はこんな事が弱点なんだ……そしてそれを自分だけには見せてくれるんだ……とか! これ萌えません!?
萌えますよね! ギャルゲー的には王道ですよね!? ツンデレとか!」

と、九龍は自分の案(というか妄想)でヒートアップしたのか、床をバシバシと叩いて語る。

「ちょ、く、九龍……。落ち着いて? ねぇ……。」

流石の緋勇も九龍の妄想っぷりにちょっと引いてしまう。そこでボソッと優鉢羅が話し掛けてきた。

「……氏神、何でこいつはこんなに必死なんだ。」

「うーん、多分……。親友以上恋人未満……な関係から脱却出来てないんじゃないかな……。」

「……というかギャルゲーって何だ……。」

困惑した表情で緋勇を見ると、緋勇は緋勇で肩をブルブルと震わせ、涙を湛えながら、

「可哀想に九龍、実は片思いなんだね……! 何なら元祖ラブハンターとして実戦で手解きをしてあげたいよ……!」

「……それはそれで酷い気もするんだが……。」

流石の優鉢羅も可哀想なモノを見る目で床を転がリ回る九龍を見る。

「とりあえず九龍を落ち着かせよう。えいっ。」

ポフッと、九龍の頭を押さえつけると、九龍がはっと我に帰った。

「――はっ!? 俺、今、夢の世界にトリップしてました!?」

「うん、大丈夫。九龍の意外な乙女心を覗いた位だから。」


〜更に数十分後〜


「じゃあ、因みに緋勇さんはどうしてみたいですか? こうして驚かしたい! みたいなターゲットは居ます?」

と、我に返った九龍が緋勇に問う。

「うーん、驚かしたいというより、何とかしたい子なら居るかな?」

「へえ? 誰ですか?」

「うんとねぇ、真里野君と七瀬さん……かな。何かねぇ、ああいうピュア過ぎる不器用な子見てるともう!
お節介焼きの血が騒ぐというかね! こういうイベントにかこつけて、ちょっと進展させたい訳よ、俺としては!」

「案外分かってたんだな。自分がやり手婆ァみたいな性格な事。」

と、優鉢羅が突っ込む。実際緋勇は高校時代からそういう子であった。例として醍醐と小蒔の関係である。
だがしかし、その時は根回しをし過ぎて逆に自分が京一と実はデキてる……といった不当な噂をされたのだが。
まあ、クリスマスまで一緒に居たんでは致し方ない噂であるが。

「ええ〜……? 真里野……ですかぁ〜?」

と、露骨に嫌な表情をする九龍。従弟の表情に当惑する緋勇は慌てて尋ねた。

「え、な、何? 九龍は真里野君、苦手?」

「いや、苦手というか……。ほら、七瀬さんは渡せないんで……。」

「あ、何だ、そういう事か。良かったー、九龍、真里野君の事苦手なのかと心配しちゃった。」

ボソッととんでもない事を言う九龍と、ホッと胸を撫で下ろす緋勇。しかしすかさず優鉢羅が突っ込みを入れる。

「いや、良くないだろう。何気にこいつサラッと二股発言してるぞ。何だその狙った獲物は全員おとす、みたいなのは。」

「後はですねぇ〜……。あっ! 忘れてました、緋勇さん! 海草! 皆守をバンバン脅かしましょう!」

「え? 皆守君?」

最早海草=皆守は暗黙の了解である。

「そうです。あの海草です。そりゃあもう重点的にしつこくネチネチと追い詰めましょう。――海草を。」

「……わざわざ二回言ったな、海草って。」

「九龍にとっては余程大事な事なんだろうねぇ。ふふっ、九龍はよっぽど皆守君が大好きなんだね。」

「いや、俺にはあいつからは敵意しか感じられないぞ。」

と、またもや盛り上がる九龍を見ながらボソボソと話す二人。

「で? 具体的に皆守君をどう驚かすの? 皆守君はオバケを怖がるようなキャラじゃないでしょう?」

「ふっふふふ。実はあるんですよ、緋勇さん。あいつが怖がるものが、ね……!」

「……え?」

「そう! それは宇宙人! 未確認生命体! E○、ゴーホーム! ですよ!!」

「く、九龍、それ若い子にはちょっと分からないネタかもだから……。というか大手過ぎるパロディはちょっと……。」

と、緋勇が要らんフォローをする。

「そういう訳ですから、レトルトカレーを持ったすどりん(衣装厳選済み)に後光を背負ってもらいつつ
『カレー星人、只今華麗に参上!』と叫んでもらいつつ、學園の果てまで追っかけてもらいましょう。
勿論決め台詞は『アイム ユア ファーザー』です!」

「だから、九龍、そういうパロディはね……。というか使った場所が違うよね、それ。」

「本当に容赦ないな、あいつ。怒りと恐怖をいっぺんにプレゼントしようとしてるぞ。」

「うーん、これも愛の鞭……なのかなぁ?」

と、流石の緋勇もちょっと疑問をもってきたところで、


突如、部屋の気温がすうっと下がった。


「!?」

警戒する三人。そこから何も動く気配は無い……。しかし、緋勇には前にもこんな記憶があった。

「……ちょ、ちょっと、優鉢羅……。このパターンってあいつが……。」

と、言いかけた正にその時!

「お久しぶりです。」

「ででで出―――た――――――ッッッ!!!」

「……! お、お前は……!」

「ふふふ、振り返れば白い影……とでも言いましょうか? ――こんばんわ。」

「み、御門……!」

そう、誰が呼んだか陰陽師! 仲間と書いて天敵と読む! 仲間と言う名の最強の敵! してその実体は! 

――御門晴明その人であった。

慌てて優鉢羅の後ろに隠れる緋勇。御門を知らない九龍は従兄の怖がり様に驚きつつ、その原因であろう人物を見た。

「あ、あれ……? あんた、確か依頼人の中の一人、宮内庁陰陽寮の……。」

「おや、こちらの《宝探し屋》さんとは初対面ですね。こちらはキチンとご自分が依頼をこなしていらっしゃるんですねぇ。
依頼人の名前を覚えている。優秀な事です。」

と、挨拶をする御門。勿論遠回しに緋勇に対して駄目出しをするのも忘れない。

「な、何しにきたのさ……!」

緋勇はといえばブルブルと震えながら勇気を振り絞って優鉢羅の背後から叫ぶ。

「ちょ、氏神……。お前手の……というか全身か。兎に角、汗が尋常じゃないぞ。暑苦しい、離れろ。」

「ひ、酷いよ、優鉢羅! 見捨てる気!?」

ぎゃあぎゃあと喚く緋勇。既に軽くパニックになっているようだ。そんな緋勇を見つめつつ、
御門は小さく溜息を吐いた。

「何しに、来たか――ですって?」

御門は端正な眉を顰めて緋勇を横目で見る。口元は扇子で隠しているので、笑っているのか真顔なのかは分からない。
だが、その分怖さだけは増している。御門はつかつかと緋勇に歩み寄ると、扇子をパチン、と閉じ、

――その扇子で緋勇の眉間をトン、と叩いた。

「貴方がなかなか頼んだ物を持ってきてくれないのでね、余程手間取っているか、それとも単なる役立たずか。
……そう思って依頼をキャンセルしようと思ったのですが。秋月様が貴方に何かあったのかもしれない。
少し様子を見てきて欲しい……と言われたので、私直々に仕方なく、……ええ、仕方なく。足を運んだという訳ですよ。」

「……今、さり気なく念を押したな。」

ボソッと突っ込む優鉢羅を無視したまま、御門が話を続ける。

「そうしたらまあ、何と楽しそうに雑談してるじゃないですか。……何ですか、肝試し? 肝試しですか。
 肝試しなら貴方、高校時代、毎日のようにしていたでしょう。……うちの屋敷で。」

「いや、その、あれは……。」

言葉に詰まる緋勇。更に御門は畳み掛ける。

「気付いてましたよ。貴方は名目上は村雨と花札をしに来ていた。だが実際は私に遭遇するかしないかの
スリルを楽しんでいたんですよねぇ?」

「いえ、その、そのような不真面目な事は、決して……。」

段々と扇子を押し付ける力が強くなってくる。見ると御門は満面の笑みだ。
その反面、緋勇の表情は恐怖で染まっていた。

「どうですか? 肝試しには持ってこいでしたか? そんなに私は怖いですか? 怖いですかね?
ああ、いえいえ。怒っているんじゃないですよ。余りの貴方の馬鹿加減にちょっと笑いがですね。」

と、扇子を更にグリグリと眉間に押し付ける。口調は相変わらずだが、見て察するに、どうやら大分ご立腹だったらしい。

「ご、ごめんなさい! すみませんでしたっっ! 二度とやりません! だから、だからもう勘べ……ぎゃああああっっ!!」

「ひ、緋勇さ―――んっっ!!」

響き渡る緋勇の絶叫は、正に肝試しの時のそれだった。

「高校時代も仲間を出汁にしてたんだな、あいつ……。」

「――さて、大分釘も刺しましたし、これで貴方も真面目に仕事に取り掛かるでしょう。
秋月様には緋勇は壮健だったと伝えておきます。」

「……か、過去形に…・…しないで……ください。」

息も絶え絶えな緋勇が精一杯の努力で突っ込む。

「良いですか? 早く収めてくださいね。――最高のカツ丼を。」

と、御門は極上の笑顔(だが目は笑っていない)で言った。

「は……ははっ! 誠心誠意勤めさせていただきますっ!」

「では、私は帰ります。何、これも式神ですから。ご心配なく。」

緋勇は慌てて立ち上がり、敬礼する。その姿を見て満足したのか、御門は帰っていった。
――勿論、今回もドアから。



――数分後、やっと息が落ち着いた緋勇が涙目で叫んだ。

「こ、怖かった……っっ!!」

「……何の儀式に使うんでしょうね、カツ丼……。」

「ああいう人なの! 本当に儀式に必要なのか分からないものばっかり頼んで! 
俺が命がけで料理を作るとこが見たいんだよ!」

「何か、神鳳先輩の強化版、って感じでしたねー。」

「というか式神なのにやはりドアから出て行ったぞ……。」

「ううう、きっと外に真っ黒いリムジンが停めてあるんだ……!」

――無意味だ。と優鉢羅と九龍が心の中で突っ込んだ。御門は忙しい割には緋勇苛めには無駄に力を注ぐ。

「で? どうするんだ、肝試し。やるんだろう?」

と、少し気を利かせて優鉢羅が話を変える。

「の……、NOッッ!! 駄目! 俺、今日から全力で遺跡に潜らなきゃいけないから!
早くカツ丼を収めないと、次はどうやって現れるか……!ああ、恐ろしいっっ!!」

「……緋勇さん、俺も手伝いますよ!」

九龍が哀れみの目で緋勇を慰める。

「ありがとう、九龍……! うう、ごめんね、情けない従兄で……。」

「そんな事ないですよ! 緋勇さんの気持ち、痛いほど自分には分かりますっっ!(神鳳先輩で)」

「九龍――っ!」

感極まって従兄弟同士、ひしと抱き合う。ふと、緋勇の背中からはらりと何かが落ちた。

「? 緋勇さん、何か落ちましたよ?」

「……え? 何これ? ……メモ?」

と、メモに目を通すと、

―これ位で貴方の肝が冷えるなら、私はいつでも喜んで協力しますよ  御門―

…と、書いてあった。

「ぎゃあああああああっっっ!!!」

再度、寮内に緋勇の絶叫が響き渡った――。

「……充分冷えたみたいだな、お前の肝……。」

やはりボソッと優鉢羅が突っ込んだ。


結局、緋勇は全力で遺跡に潜った後、疲労と心労で寝込んでしまい、結局肝試しは企画倒れとなったのだった。


オマケ3 ちょっとしたif。〜主人公’sが居ない時に優鉢羅が皆守と八千穂と初顔合わせしたら〜
※優鉢羅が酷い目に遭うとか皆守と八千穂ちゃんに失礼だとか突っ込んじゃ駄目!(笑)※



「……誰だ? お前。」

警戒色全開で、そう呟いたのは葉佩と緋勇のクラスメイト、皆守だった。

「む。」

皆守の視線は目の前の人物にまっすぐ当てられている。

「どしたの? 皆守く……って、え?」

後から顔を出した八千穂も、目の前の状況を見て固まった。


それは数時間前の事だった。緋勇と九龍が、珍しく2人で遺跡に挑む! と張り切って出て行ったばかりだった。
そんな日に限って、皆守がオリジナルカレーが出来たから、2人に食べさせようと思い立ったのだ。
お相伴に預かろうと八千穂も一緒に合流したのだが、部屋をノックしても返事が無い。留守? 遺跡か? と思い、
何とはなしにドアノブを回すと鍵が開いていた。……閉め忘れか? それとも中で何かあったのか? と
いぶかしんだ2人がドアを開けると、其処に居たのが、

「……氏神と一周目主人公は、訳あって留守だ。」

「だからお前は誰だって言ってんだよっっ!」

2人の目の前には思いっきり侵入者の格好をした、優鉢羅が立っていたのだった。


皆守と八千穂が体勢と目線はそのままで、2人でヒソヒソと目の前の人物について語りだす。

「みみみ皆守くんっっ! 不審者だよっ!」

「落ち着け八千穂。こいつの格好を見てみろ。」

「あ、サーチスコープにリュック。……九チャンの同業者、かな?」

「俺としては覆面が気になるがな……。にしても仮に同業者として、何で同業者が此処に?
……まさか、緊急の用事か?」

と、おおよその見当を付けて、改めて話しかけた。

「おい、あんた。……ええと、九ちゃんの、同業者、か?」

「……九ちゃん? ああ、一周目主人公の事か。」

ふむ、と頷く優鉢羅を見て、再度ヒソヒソと語りだす2人。

「一周目主人公って……?」

「あだ名か? ……一応知り合いではあるみたいだな。」

とりあえず襲ってくる気配は無いので、今度は堂々と(?)後ろを向いてヒソヒソやっている。
此処でジッと優鉢羅は2人を観察してみた。海草頭にお団子頭。……この2人は確か……、

「おい。お前達。確か……、皆守 甲太郎に八千穂 明日香、だな?」

「――っ!?」

「な、何で名前を知ってるの……? あ! もしかしてス」「ストーカーとか言ったら殴る。」

と、即座に否定する。ふむ、と再度優鉢羅は唸った。どうも自分は2人に不審者だと警戒されているらしい。

(まあ、分からんでもないんだが、な。)

因みに優鉢羅はと言うと、一周目主人公こと葉佩の情報と、己の諜報活動の成果で2人(主人公’s)の人間関係は
手に取るように分かるのだが。

(下手に色々喋ると、面倒そうだな……。)

さて、此処で下手に自分の身分を明かしたらどうなるだろう?
異世界から来たとでも言ったら恐らく可哀相な目で見られるか、益々不審がられるだけだろう。

(――何せ、あいつ等の知人だからな……。)

はあ、と優鉢羅は大きく溜息を吐いた。どうも近頃の若い人間は扱い難い。

「――おい、あんた。」

どうして己が此処まで人間相手に気を使わねばならないのか。優鉢羅は改めてこの状況を呪った。

(2人が居ないからと、油断していたのが拙かったな……。鍵の確認をしておけば良かった。)

「おい!」

「――ん?」

はっと我に帰って顔を上げる。どうやら1人黙ったきり、溜息を吐いたり、ブツブツ言っていたので更に怪しまれたようだ。


……面倒だ。凍らすか?


それが優鉢羅の出した答えだった。

「何だ?」

だがしかし、すぐさまその考えを振り払う。下手な事をしたら鳩尾に氏神の拳(恐らく確実に奥義を使ってくるだろう)を喰らう。
一応優鉢羅も今は符という依代で姿を保っているので、下手にダメージなぞ受けたら勧請師の居ないこの世界では最悪、
致命傷になるかもしれない。


それは困る。


数秒でそんな結論に至った優鉢羅はと言うと、

「ああ、驚かせたか? すまないな。こんな姿だからな。」

と、覆面を外し、薄っすらと笑った。(勿論顔は人間のそれで)

「……あんた、九ちゃんと龍ちゃんの知り合い、なのか?」

素顔を見せた事、そして友好的(に見えるよう優鉢羅は頑張っていた)な態度を見せた事で、幾分か皆守の声色も和らぐ。

よし、このまま適当に流してさっさと帰らせよう。

と、思った優鉢羅は、表面上笑顔は崩さずに頭の中で急速に計画を練り始めた。

「――ああ、紹介が遅れたな、俺は優鉢羅。氏が……ごほん、緋勇の古い知り合いだ。」

「なぁんだ、龍チャンのお知り合いの人だったんだね!」

ホッと表情を和らげた八千穂がニッコリと笑う。

よし、良いぞ。頑張れ、俺。
心の中で小さくガッツポーズをすると、更にペースを崩さず話し続けた。

「こんな格好の奴が居たら驚くよな、すまない。今夜、どうしても緋勇に伝える用事があってな。
そうしたらこの學園に居ると知った。更に此処は部外者立ち入り禁止だろう? こちらもどうしても伝えたい用事でな。
すまないとは知りつつ、潜入させてもらった。」

「なぁんだ、そっかー!」

へへっと笑う八千穂。だがしかし、皆守はと言うと、再度表情を強張らせ、突っ込んだ。

「潜入って……、お前、龍ちゃんの知り合いだって言ったよな? 一体何者なんだ?」

(ちっ、思ったより知恵が回るな、この海草は……。)

優鉢羅は2人に聞こえぬよう小さく舌打したが、すぐに言葉を続ける。

「おいおい、そう怪しむなよ。良いか? あの緋勇の知り合いだぞ? 思い当たる節は無いか? 納得しないか?」

と、“あの緋勇”の部分を強調して問い返す。

「……あー、そういや居たな、忍者が。」

此処で漸く警戒を解く皆守。恐らく亀忍者の事を思い出しているのだろう。

(何にせよ、氏神のよく分からん人脈のお陰で助かったな。)

「だが、どうやらすれ違いだったらしい。緋勇は何処かに行ってしまったらしいな。」

「あ、それならきっとあそこだよ!」

と八千穂が閃く。

「あそこ? 確か緋勇からこの學園には不思議な遺跡があると聞いていたが、もしや……・?」

と、何も知らない振りをして聞き返す。

「そう、それ! きっとそうだよ! 2人とも近い内に従兄弟同士で絆を深めたいって張り切ってたし。」

「ははは、緋勇らしいな。」

知っているがな。と思いつつ優鉢羅は笑った。

「でもどうするんだ? あんた、龍ちゃんに伝えたい事があったんだろう?」

と、皆守が言う。

「ああ、心配無い。一応伝言は残した。もし長く帰ってこないのなら俺もその遺跡に行ってみるさ。」

「ええっ!? 危ないですよ! あそこは……!」

八千穂が目を丸くして叫んだが、それを遮って、

「普通の人には危険、か?」

と、意味深にニヤリと笑う。

「……あ、そっか。龍チャンのお知り合いだもんね、普通じゃないか。」

普通じゃないとか言うな。それを言うならテニスラケット1つで遺跡に行くお前のが余程普通じゃないわ。
……と、突っ込みたいのをグッと堪えて「そういう事だ。」と頷く。

「さて、折角だし、俺もその普通じゃない遺跡を見てから帰るか。――で? 君達はどうする?
2人に用があったんだろう? 何なら俺が伝えてやるが……?」

と、漸く2人に本題を振った。さあ、帰れ。早く帰れ。と念を込めて。

「そうだなぁ……。」

と、皆守が頭を掻く。

「折角皆守くんがオリジナルカレーを作ったのにねぇ。皆守くん、九チャンと龍チャンに一番に食べてもらおうと
張り切ってたのにね。」

「ば、バカ。違うっつうの。」

「カレー?」

改めて皆守を見ると、手には確かに大きな鍋があった。

「ん? ああ、これか。俺特性のカレーだ。まあ、俺も今回のは上出来だと思ってるんだがな。」

「その鍋は……?」

「カレー専用のMy鍋だ。」

「まだあったのか。貴様は幾つ持ってるんだ、My鍋。」

「え? 何か言ったか?」

「……何も。」

何とか耐えてきていたが、思わず此処で突っ込んでしまい、慌てて誤魔化す。

「ははは、流石にそれを持って遺跡には行けないな。どうだろう? カレーは一晩寝かせた方が味が良くなるんだろう?
仕方ないからそれは明日にして、今夜は引き上げたら。2人には俺が伝えてあげるよ。」

と、苦笑しながらサラッと言った。

「そうだなぁ、確かに……。」

ふむ、とアロマパイプを触る皆守。

(よし、決まった。)

優鉢羅がホッと一安心したのも束の間、八千穂が再度閃いた。

「あっ、じゃあ折角だから、優鉢羅さんにも味見してもらったらどうかなっ? 今日会えたのも何かの縁だよ!」


余計な事を! このポジティブシンキンめ!


一瞬優鉢羅が固まる。しかしすぐさま体勢を立て直し、

「いや、それは皆守君に悪いよ。皆守君は緋勇や葉佩君に最初に食べてもらいたかったんだろう?」

と、やんわりと拒否する。

(さあ、どうだ?)

「だったらH.A.N.Tにメールしようよ! あそこ地下でも電波が届くから。」


ロゼッタ協会めっ! 無駄に便利な物を造りやがるっ!


再度優鉢羅が固まる。

「や、しかし2人も大分奥まで潜ってるんだろう? だから……。」

そうこうしてる間に八千穂が携帯をポチポチと打ち始めた。

「――っと、送信完了、っと♪」

するとすぐさま八千穂の携帯が鳴った。

「あ、やっぱり速ーい♪ ……やった! 2人ともすぐ帰るって! これで皆守くんはカレーを食べさせられるし、
優鉢羅さんの事も伝えたから、伝言を伝えられますねっ!」

と、八千穂がにっこりと笑った。

「……ああ、そう、だな……。すぐ帰ってくるか……。」

それは優鉢羅の1人になれる自由時間終了を表していた。それと同時に主人公’sにからかわれるネタが出来たという事も。
その時の優鉢羅の表情は言うまでもない。


〜経つ事数10分〜


「やぁやぁ、やっちー、海草、お待たせー!! あ、優鉢羅さんも待たせたぁー?」

と、九龍がニヤニヤしつつ帰ってきた。

「やあ久しぶりじゃん? 優鉢羅ー。何? 俺に用事があるんだって?」

と、緋勇もニヤニヤしつつ優鉢羅の肩に手をかける。

「……くっつくな。」

調子に乗るなよ……と、怒鳴りたいが皆守と八千穂が居る手前、下手に怒れない。2人もそれを見透かして
優鉢羅をからかっているのだろう。優鉢羅は今すぐ元の姿に戻りたい、と心底思った。

「ゴメンねー、2人とも。今日は突然押しかけちゃって。結構奥まで潜ってた?」

「いや、良いって良いって。皆守君、今日はわざわざありがとう。早速皆で食べようか♪」

と、緋勇がにっこりと笑う。

「いやー、楽しみだなぁ。動いた分、俺もう腹減りまくりだよー。」

「まあ、食べてみてくれ。今日のは自分で言うのも何だが、自信作だ。じゃあもう一度暖めるから、待っててくれ。」

と、1人を除いて、和やかな雰囲気が流れた。

そうこうする内にカレーを温めなおした皆守が戻ってきた。
既に怒りMAXな優鉢羅は、部屋の壁にもたれ掛かっていたのだが、皆守が声をかける。

「おい、あんた、早く来いよ。折角暖めたカレーが冷めるぞ。」

「そうだよ、優鉢羅ー。美味しいよ、皆守君のカレー!」

「……冷めるのを待ってたんだ。」

「え、優鉢羅さん、猫舌? あはは、何だか、かわいーい♪」

確かに熱いものは少し苦手だが、まさか人間に、しかも数百年も年下の小娘に可愛いと言われるとは……。
優鉢羅はニヤニヤしている主人公’sをなるべく見ないようにして腰を下ろした。

「おい、あんた。」

突如皆守が固い声で呼びかける。

「……な、何だ?」

「カレーは暖かいのも美味さの1つだ。……冷ますだなんて、とんでもない。早く食え。」


くっ、カレー馬鹿全開か……!


この団体の中では幾分かまともだと思っていただけに、想像以上のカレー馬鹿っぷりに歯軋りをした。
仕方なく、一口、スプーンを口に運ぶ。

「おいし〜い! 皆守くん、すっごく美味しいよっ!」

と、八千穂。

「うわ、美味いじゃん、海草。おかわり!」

これは九龍だ。

「…………。」

熱い。
熱さを堪えつつ、優鉢羅は黙って咀嚼する。

「どうかな? 優鉢羅。こういう食事は初めて?」

と、緋勇が流石に心配して顔を覗き込んでくる。

「……隠し味は、ヨーグルトか。爽やかな酸味と、干し葡萄の甘さのお陰で、辛いのが駄目な奴でもいけるな。」

ボソッと一言だけ言うと、皆守が驚いた顔をして優鉢羅を見た。

「なっ、あんた……!」

優鉢羅はと言えば、やはりルーの熱さに参っていた。無表情なのは変わらず、目だけで周囲を見渡すが、水が見当たらない。
やはりとは思っていたが、カレー好きによくある水は飲まない派か……、と小さく舌打ちをした。

すると突然、皆守が叫んだ。

「あんた、分かるじゃないか……!」

と、頬を紅潮させる。

「いや、別に、感じた事を言っただけであって、それより水……。」

「凄いよ、優鉢羅さん! お茶の間もビックリな名コメンテーターっぷりだよ!」

と、八千穂も興奮して目を輝かせる。

「いや、それより水……。」

「おいおいお〜い、食いしん坊、万歳! 優鉢羅編か? やるじゃん、お前!」

「いや、だから……。」

「凄いな、優鉢羅。隠し味まで分かっちゃうなんて。」

「そうだ、今度は仲間達皆でカレーパーティしない!? きっと楽しいよー!」

と、勝手に周囲が盛り上がっている。

「……だから、水をくれ。」

流石に怒る気力も失せて、優鉢羅は力なく呟いたのだった……。


オマケ4〜クリスマス編〜またもやシナリオ無視な展開。ちょっとしたifだと思って見逃してくださ〜い。

「そろそろクリスマスだねぇ。」

と、緋勇が呟いた。

「クリスマス前って、ボス前真っ只中だぞ、氏神。」

と、突っ込みを入れたのは優鉢羅だ。

「いやほら、なんちゃって黄龍本編ラストがいきなりボス戦だったんで。やっぱりこういう事前にあった事も伝えなくちゃ…ネ☆」

そう言ってバチコーンとウインクした。

「誰に言ってんだお前。」

優鉢羅の突っ込みも相変わらずだ。

「まあまあ。今回はクリスマス目前って事で。ほら、このゲームってボス戦前にラブイベントがあるでしょう?あれは迷うね。
本命でいくなら七瀬さんか八千穂さんかと思うんだけど、誰か1人とラブイベントをこなすと他の子とはラブイベントできなくなっちゃうし。」

「それが普通だ。」

「七瀬さんは七瀬さんで真理野くんとくっ付いて欲しいしねえ。」

「出たな、お節介。お前高校時代もそんな事言ってただろ。」

「う。」

図星を突かれ、ちょっとたじろぐ緋勇。だが此処で引き下がったら終わってしまう。突っ込みを振り払うかの如く頭を降った後、

「煩いよ、優鉢羅…。今回はねぇ、ゲストとして凄い心強い味方を呼んでるんだから。これでもう1人としかラブイベントが
起きないだなんて言わせない!」

「お前、人としてどうかと思うぞ。……って、ゲスト?」

「カモン! 新宿の魔女こと、裏密!」

と、大声で叫んだ。すると、背後から響くのは例の声。

「うふふふふ〜…ミサちゃんの事、呼んだ〜?」

緋勇の高校時代の友人こと、裏密ミサその人だった。

「いつの間にどっから入ってきたんだ……? いや、それ以前にだな。お前、それは反則じゃないのか……?」

いつの間に来たという突っ込みを放棄してですらこれを突っ込まずにはいられなかったらしい。まあ裏密なので、何処から
入って来たと尋ねる時点で愚問である。それより優鉢羅の言う反則とは、そう、裏密は東京魔人學園でキャラ全員の好感度
及びフラグをいじれるのだ。

「良いんだよ、俺、螺旋洞クリアしたし。」

「いやこれ魔人じゃないしな……。やっぱり人の気持ちを操るなんて、反則……。」

とブツブツ呟く優鉢羅を余所目に緋勇が裏密に話し掛ける。

「どう? 裏密。今でもあれ(好感度弄り)、出来る?」

「うふふ〜…、緋勇く〜んが〜、望むなら〜、1日位やってあげても良いかな〜。」

「それで充分だよ、ありがとう裏密!」

どんなキャラですら一発で落とすという満面の笑みで礼を言う緋勇に、裏密はニヤリと不気味な笑みをたたえる。
どうやら照れているらしい。

「うふふふふ〜……。ミサちゃん、恥ずかしい〜。……で〜? 緋勇くんは誰との相性を上げたいの〜?」

と、裏密が尋ねたその時。

「鎌治でお願いしますっっ!」

と、葉佩が飛び込んできた。

「わ、びっくりした。九龍、いつの間に?」

驚いて尋ねると

「反則だろ……の件からです。」

「……結構前から居たんだね。」

「いえ、ドアの向こうで聞き耳を立ててました!」

隠す様子もなく、きっぱりと言い放つ九龍。

「そ、そうなんだ、へぇ……。」

「犯罪だろ。怖いぞ、お前の従弟。」

流石にたじろぐ緋勇。そしてズバッと突っ込む優鉢羅。かく言う優鉢羅も普段は天井裏に居るのだが。

「あらら〜? 貴方は《宝探し屋》さん〜?」

裏密と言えば怯む事無く葉佩に話し掛ける。

「はいっ、《宝探し屋》です、新宿の魔女さん!」

「何? 知り合い?」

と、緋勇が首を傾げながら優鉢羅に尋ねる。

「クエストの依頼人だが。……嗚呼、お前クエスト全部俺に任せてたな。」

と冷ややかに一瞥する。緋勇はぷりぷりと怒りながら

「失敬な。裏密が依頼人だって事位、知ってたよ。」

的外れな所に突っ込みを入れた。

「知ってるだけで実際依頼を受けたのは1周目主人公と俺だ。」

呆れたと言わんばかりに言い捨てる優鉢羅。だが特に緋勇は気にしていない様だ。

「九龍は取手くんと仲良くなりたいのかな?」

「仲良くというか……、クリスマス目前といったら目指すは恋人じゃないですか。」

「ああ、友達以上、恋人未満ってやつだったね。」

「まだ諦めてないのか、こいつは。」

「それ位九龍は真剣なんだよ……! うわあ、俺、応援してあげたくなっちゃった……! そうだ! 裏密!」

従弟の真剣さ(というより必死さ)に心を打たれた従弟バカな緋勇は、何を思いついたか裏密の方に振り返ってこう叫んだ。

「俺のことよりさ、九龍の事を頼むよ! 何かこう……、どうにかしてあげたい!」

「出たなお節介。」

ボソッと突っ込みをいれる優鉢羅を緋勇がキッと睨みつけ、

「煩いよ、良いんだよ。九龍の幸せが俺の幸せなんだから……!」

と、従弟バカ全開の笑顔で言った。

「緋勇さん……!」

「良いけど〜……、出来るのは悪魔で1日だからね〜。それ以上は自分の力で頑張らないとね〜。」

「充分です! 俺、頑張ります! この気持ちは誰にも負けないと自負しています! 特に海草なんかには負けない!」

だったら自力で頑張れよというか皆守を勝手に基準に入れるな、と思いながら事の展開を見守る優鉢羅(単に飽きてきたともいう)

「じゃあいくよ〜? エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……。」

裏密は自前の水晶玉の前に手をかざし、呪文を唱える。途端に辺りが異質な雰囲気に包まれる。意外と時間がかかるのか、
長時間黙ってるのに飽きてきたのか、緋勇が優鉢羅と九龍に話しかける(しかも話題は全く関係ない)

「そうそう、また皆に食べ物プレゼントしてこようと思うんだけど。」

「ほう。で? あの海草頭には何をやるんだ?」

「え? ああ、レトルトカレー。」

「お前……、あいつにレトルトそのまま渡すのは駄目だと言っただろう?」

「あ、そっか。うーん、難しいなあ。皆守くんはカレー大好きな分、拘りも半端無いからねぇ。」

「贅沢なんですよ、あいつは。いっそカレーと結婚すれば良いんです。俺には見えますよ、あいつが将来自称カレー仙人とか
名乗ってクエスト依頼してる姿が。」

「ぷっ、何それ。九龍、それ面白いよ〜。」

此処で笑ってはいるが、実際そうなってしまうから笑えない(@東京鬼祓師)


と、此処で裏密が大きく息を吐いた。その瞬間部屋を取り巻いていた異質な雰囲気もすうっと消える。

「……ふう〜。終わったわよ〜。後は見てのお楽しみ〜。」

「ありがとうございます、新宿の魔女さん!」

「ありがとう、裏密!」

ラブハンター2人にお礼を言われてまたもや不気味な笑みを浮かべながら照れる裏密。

「まあ、ミサちゃんは悪魔できっかけを作っただけだから〜、後は貴方次第〜。頑張ってね〜。」

「充分ですよ、じゃあ俺……、行って来ます!」

「頑張ってね、九龍!」

「はい! 待ってろ鎌治、この聖夜にお前のハートという名のお宝を盗んでみせる……!」

何か気障な台詞を吐きながら意気込んで出て行く九龍。

「じゃあ、ミサちゃんは帰るね〜。そろそろお店の時間だから〜。」

と、裏密もドアからすたすたと歩いていってしまった。

「……歩いて帰るんだな……。」

はあ、と溜息を吐く。優鉢羅。途端に静かになる部屋。

「行っちゃったね……。よし、じゃあ俺達も行こうか!」

「? 嗚呼、餌付け。」

「餌付け言わない。とりあえず皆守くんから行こうかな。ちゃんとカレーも作ってあるし。 あ、折角だし優鉢羅も一緒に行こうよ。」

「1人で行けば良いだろう。」

「良いじゃん。ちょっと位一緒に散歩しようよ。」

拗ねた顔で優鉢羅を見つめる緋勇。

「……仕方がないな。」

どうもこういう顔をされるとこちらが悪い事をしている気になるのか、弱いらしい。優鉢羅も渋々承知した。


早速皆守の所へ行く2人。すると皆守は……、

「悪いが今、急にカレーへの愛を突き詰めたくなったんだ。新作カレーの案が次々と沸いてきてな。
俺とカレーとの間を邪魔しないでくれるか……!」

「……え?」

予想もしない台詞に固まる緋勇。

「おっと! 今、大事なところなんだ。じゃあ、悪いけど、俺はもう行くぞ。」

と、そう残して皆守はバタンと扉を閉めてしまった。

「……どうしたんだろ、皆守くん。確かにカレー大好きだけど、何か今日は異常、というかちょっと執着し過ぎて、怖……まさか。」

此処でハッと表情が強張る。

「さっきの、九龍のカレーと結婚云々の話……。もしかして、皆守くんとカレーとの愛情フラグも弄ったのかな、裏密。」

「……みたいだな。」

暫しの沈黙。

「あ、明日になればいつもの皆守くんに戻るよ、ね……!?」

「さあな……。」

いつでもカレー馬鹿だからなあという突っ込みを呑み込んで、その場に立ち尽くす緋勇と優鉢羅だった――。

因みに、九龍と取手がどうなっていくかはご想像にお任せします。


オマケ5〜※なんちゃって本編のこぼれ話。矛盾しているとか突っ込まないで下さーい〜
「久しぶりに驚いたな…。」

ポツリと優鉢羅が呟いた。昼間、緋勇と共に保健室に行ったのだが(優鉢羅は悪魔で気配を消して潜んでいた)
姿の見えない優鉢羅の気配を保険医であるルイにいともあっさり感付かれたのだ。

「まさか人間の娘がな。」

と感心した様に頷く。

「まあ、ルイ先生は専門家みたいなもんだからねえ。」

しみじみと語る緋勇。

「ほう。」

珍しく興味を持ったのか、優鉢羅がこちらに顔を向けた。

「凄いんだよ、ルイ先生の家系…というか劉の家系。なんたって龍脈を守る一族だから。」

「そうか…。ただ者では無いとは思ったが…。」

ふむ、と頷く優鉢羅。それを見た緋勇が

「優鉢羅が他人を褒めるなんて珍しい。良いなあ、俺もたまには褒めて欲しいな。」

と、物欲しそうに優鉢羅を見た。

「…お前の何処を褒めるんだ?」

しかし優鉢羅はバッサリと一言で切り捨てた。

「酷い!」

予想以上に落ち込む緋勇を見た優鉢羅が逆にたじろいでしまい、

(む、流石に言い過ぎたか…。“一応”こいつは黄龍の器なんだしな。…というか、こいつを泣かすと一周目主人公が五月蝿いしな。)

と、本音が半分出ながらも

「おい、そうしょげるな。」と、言おうとした時、

「アニキに向かって何ちゅう言い種やー!」

パーン!と、突然窓ガラスを割って(因みに此処は三階である)何者かが飛び込んできた。その手には
大きな刀が握られていて、輝くそれを正に今、優鉢羅へと振り下ろそうとしている。

「!?」

慌てて刀を避ける優鉢羅。しかし侵入者は尚も襲いかかってくる。その太刀捌きは恐ろしく鋭い。

(何だこいつ。…ん? これに似た氣を何処かで…?)

と、刀を避けながらも反撃すべく優鉢羅が覆面を下ろしかけたその時、緋勇が間に入って叫んだ。

「ちょっ、ちょっとタンマ! 劉? 劉だろ!?」

「劉?」

「アニキ!」

此処で侵入者が動きを止めた。

「アニキぃ〜! 大丈夫か!? 虐められて泣いてないかっ!?」

そう、侵入者は緋勇の学生時代の仲間、劉だった。

「やっぱり劉かぁ。久しぶり! 何、どうしたの。いやそれより窓ガラスどうしてくれんの。」

ニコニコと笑顔で迎える緋勇。だが窓ガラスが割られた事には立腹している様だ。

「アニキ、元気やったか? もう心配で心配で。自分から来てしもたわ。」

勿論、立派な不法侵入である。やはり先程の表記は間違っていなかった。

「心配?」

「いや、アネキにやった手紙の件でな。」

「…ああ、あれ。」

「おい、氏神。」

ぼそっと優鉢羅が耳打ちをする。

「あ、優鉢羅は初対面だよね。こいつは劉って言って俺の仲間なんだ。ほら、ルイ先生の弟。」

と、何処と無く誇らしげに劉を紹介した。

「これがお前の言う“凄い”一族か。」

敢えて“凄い”を強調する。またおかしな奴が…、と優鉢羅は溜め息を吐いた。

「そうか。あの保険医の弟か。通りで似た氣を持っていると…。性格は全く違う様だが。」

と、冷ややかな目線を劉の後ろ姿に向ける。劉は先程割った窓ガラスにダンボールを貼り付けていた。

「劉ったら…。後でガラス代請求するからな。」

「へへへ、アニキが虐められてるかと早合点してしもた。堪忍な。」

劉は悪戯を窘められた子供の様に頭を掻く。そんな劉を見て強く言えなくなったのか、はあ、と一息吐いてから緋勇が話題を変えた。

「で? あの手紙の件で来たって? あの話なら今日終わったよ。…痛い思いしちゃった。」

と、昼間の裏拳を思い出したのか、顎をさする。

「堪忍な〜、あの後またアネキに怒られてしもた。でもワイ、どうしてもアニキと義兄弟になりたくてん…!
一番身近なポジションとして!」

と劉が叫んだ時、

「渡さねぇよ、一番ポジション!」

と、ドアから九龍が飛び込んできた。

「またややこしいのが…。おい、一周目主人公。お前また立ち聞きしてたのか。」

優鉢羅がうんざりした顔で話しかける。しかし九龍はそんな優鉢羅を無視して、ツカツカと劉の前に詰め寄った。

「一番ポジションは俺なんですぅ〜。何せW主人公っていう最強タッグなんですから。」

と、口を尖らせて言い放つ。これまた劉は劉で言い返す。

「何やて? ワイのがなあ、付き合い長いんやで。何せ赤ん坊の時から知ってるんやからなあ。」

と、得意そうに胸を張った。かなり大人気ない。

「うっ、うるさい! この似非関西弁!」

「何じゃ、ほんならお前は母国語以外喋れるんかい!」

と、終いには唾を飛ばしながら口論が始まってしまった。そんな二人を見ながら緋勇がポツリと漏らす。

「これはあれかな。お約束の台詞を言った方が良いかなあ。」

「何だ、言って見ろ。」

優鉢羅も棒読みで促す。特に事の結末に興味は無いらしい。

「じゃあ言うね。…止めてっ! 二人共、俺の為に争わないでっ!」

ふざけた台詞だが緋勇大好きな二人には効果絶大だったらしい。一発で口を閉じた。

「二人共、駄目だぞ。こんな時間に大声出したら下の階の人に迷惑だろ、めっ!」

「…すいません。」

しゅん、とうなだれる二人を見ながら、

(それを言うなら窓ガラスが割れた時点で騒ぎになっててもおかしくないのだが…。)

と、優鉢羅は突っ込みたかったが、下手に巻き込まれたら嫌なので、胸の内だけに留めておいた。落ち込む二人を見て、
今度は緋勇が頭を掻く。

「それに、一番一番言ってるけど、親友ポジションは京一にあげちゃったからなあ…。」

(無意識に追い討ちかけやがった、こいつ。)

と、これも心の中でのみ突っ込む。

「くっ、こんな事ならワイも木の上から登場すれば良かったわ…! いや、そもそも真神に転入していれば!」
と、腕に顔を押し付け、本気で泣く劉。

「誰ですか、京一って。俺の敵リストに入れるんで、詳しく教えて下さい。」

真顔で恐ろしい事をサラッと言い放つ九龍。流石の優鉢羅も眉をしかめながら「こいつら恐いな。」と呟いた。
ふう、と一息吐いてから、再度緋勇が口を開く。

「あのね二人共。俺にとっては誰が一番とかじゃ無いの。劉も九龍も、皆同じ位大事だよ。」

と、にっこりと笑った。

「あ、アニキ…!」

「緋勇さん…!」

感極まって抱き付く二人。緋勇はそんな二人の頭をよしよし、と撫でた。流石元祖ラブハンター、これが素なのだから侮れない。



暫くして、落ち着いたのか九龍がボソリと言った。

「じゃあ、今の段階で俺達の邪魔な奴って言ったら、こいつですね。」

と、目線を優鉢羅に向ける。

「せやなぁ。第一、あんさんアニキの何やのん? 随分とアニキに馴れ馴れしいやっちゃと思ってたけど。」

と、劉も再度厳しい視線を送る。

「……は?」

既にこの現状に興味は無く、今日はあのクエストをこなそうかなとかボンヤリ考えていた優鉢羅は
急に話を振られた事に逆に戸惑う。

「こいつは図々しくも緋勇さんと一緒の部屋に居る優鉢羅って奴でしてね…。」

「な、何やて!? アニキを虐める様な奴がアニキと同じ屋根の下住んどるのかいな!」

いきり立つ二人を冷ややかに見つめながら優鉢羅が冷静に反論する。

「屋根の下じゃない、天井裏だ。それに勘違いするな。こいつには無理やり連れてこられた上に
使いっぱしりの様に使われてるんだ。いい迷惑だ。」

「連れてこられたぁ? どんだけアニキに気に入られとんじゃ…!」

優鉢羅の抗議に目を剥いて叫ぶ劉。

……ダメだ、こいつ頭が氏神一色だ……。

と、げんなりすると緋勇が更に追い討ちをかけてきた。

「いやあ、優鉢羅ってば見ていて楽しいっていうか? 見た目がまんま宝探し屋っぽいから連れて来ちゃった☆
こりゃもう、天職だよね。ねー、優鉢羅。楽しいよねー。」

「なっ、氏神…! お前、それだけの理由で俺を此処まで連れて来たのか! 楽しいのはお前だけだっ!」

流石の優鉢羅も驚いて緋勇を見る。

「だってさあ〜。」

ぎゃあぎゃあやる二人を見ながら肩を震わす劉。見れば笑っている様だ。――が、いきなりスラリと刀を抜いたかと思うと、

「そんなに帰りたいんなら、ワイが今此処で帰したるー!」

と、大声で叫んだ。

「助太刀します、劉さん!」

と、九龍もマシンガンを構える。

「お前等、人の話を聞いていないのか? 本当にこいつの事となると馬鹿になるのな。この……阿呆共がっっ!」

苛々が頂点まで達した優鉢羅も遂に叫んだ。

「あらら、どうしよう。」

と、一人呑気なな声を出しているのは緋勇だ。


今にも大乱闘が起きそうな一触即発の雰囲気の中、ふと気が付くと優鉢羅の足元に黄色いフワフワしたものがすり寄ってきた。

「…む?」

視線を下ろすと、其処には黄色い生き物…基、ヒヨコが一匹。

「ああっ、ワイのピヨちゃん!」

そのヒヨコは劉の友達であるヒヨコだった。

「あっ、可愛い。」

ピヨピヨと可愛らしく鳴くヒヨコに緋勇が相好を崩した。

「雛か。」

そっとヒヨコを抱きかかえる優鉢羅。

「気を付けて、劉さん! ヒヨコ丸呑みされますよ! こいつ蛇だから!」

「えっ!」

叫ぶ九龍を余所目に優鉢羅は

「丸呑みしない。ついでに言うと蛇じゃない。」

と、突っ込んだ。そして人差し指の腹でヒヨコの頭をそっと撫でる。ヒヨコは大人しく撫でられている。

「ピヨちゃんが…、心を許しておる…!」

呆然と見つめる劉。

「良いな優鉢羅。次触らせて…!」

「あいつに訊け。」

一触即発な雰囲気は何処へやら、ヒヨコを囲みながら優鉢羅と緋勇が和気藹々と話す。

「良いんですか? 劉さん。」

九龍が顔を劉へと向ける。

「……。」

「劉さん?」

呆然と目先の二人を見る劉。

「…九龍はん。ええんや。」

そっと刀を仕舞う劉。

「ピヨちゃんが心を許した奴が悪い奴な訳あらへん。きっとあいつはええ奴なんやなあ。流石アニキが見込んだだけあるわ。」

憑き物が取れたかの様にふっと笑う劉。良い奴というが優鉢羅は龍王様だったりする。だが突っ込む奴は今、此処には居なかった。

「帰るで、ピヨちゃん。」

そっとヒヨコを受け取る劉。

「え、帰るの? 劉。」

緋勇が声をかける。

「ああ…。アニキの元気な顔も見たし、一安心だわ。また遊びに来るな。――ほな、再見。」

そう言って振り向かずに手を降る。そのまま、ドアを開けると――、

「やあ、愚弟。」

目の前には満面の笑みをたたえたルイが立っていた。顔は笑っているが逆にその笑顔がとんでもなく、恐い。

「どうも懐かしい氣を感じたと思ったら…。これはどういう事だい? あれ位の説教じゃあ効果が無いらしいね。」

劉を始め、その場に居た一同全員が凍りついたのは言うまでもなかった――。


オマケ6〜※ハロウィンな季節だと思って下さーい。ゲームやドラマCDと違うとかツッコンじゃ駄目!〜
さて、季節は10月。そろそろ秋も終わりを見せる頃、ふと緋勇が呟いた。

「ハロウィンってやつをやってみたい…。」

「――ハロウィン? 西洋の祭りか。」

優鉢羅が問い返す。珍しく優鉢羅が返事をくれたのに気を良くしたのか、緋勇が滔々と語りだす。

「そうそう、それ。この學園では夜会とか何とかあるけどさあ、選ばれた一握りの人だけでなくて、皆で楽しめる行事が
無いよ、無い無い。いやそりゃ球技大会とか学園祭あるけど……あ、それだ。」

「學園祭か。」

「そうだよ〜、その手があったよ〜! 學園祭! ハロウィンやろうよー!」

乗り気な緋勇を見ながら従弟の葉佩が申し訳無さそうに言った。

「すみません、緋勇さん。學園祭はもう探偵物って出し物決まってるんです。…あ、気になる方はドラマCDで。」

さり気なく宣伝を入れる辺りは流石一周目主人公である。緋勇は気にもせず得意そうな顔をして、ちっちっちっ、と指をふる。

「甘いよ、九龍。ドラマCDは悪魔で九龍の時の出来事だろう? その点、俺が主人公なら好きに出来るんじゃないかと…!」

「無茶苦茶な主人公だな、お前。」

「良いじゃん。兎に角俺はハロウィンがやりたいんだよ。ゲストとか招いてさあ。」

「この學園は部外者立ち入り禁止だが。」

優鉢羅のツッコミを無視して語り続ける緋勇。口調にも熱がこもってきた。

「俺は例えば劉がキョンシーの仮装してハロウィン楽しんでるところにルイ先生が来て、悪霊は退治しないとなとか
言われて札で攻撃されるとか、何も知らない醍醐を呼んで本気で泣かせるとかしたいんだよ。」

「お前は鬼か。」

呆れる優鉢羅を余所目にどんどん盛り上がってくる主人公’s。九龍がはいはい! と手を挙げる。

「だったら俺はあの鬼野郎を泣かせたいですね!」

此処で九龍の言う鬼野郎とは勿論、物部である。

「そんなにゲストを呼びたいのならお前の元教師を呼べば良いじゃないか。」

優鉢羅が提案する。元教師とは犬神とマリアの事である。

「…ちょっとした手違いでまた学生やってます、てへへ☆とか言える…?」

「…そうだな。恐らく心底冷めた目で見られるか。……いや、最悪お前自身に興味が無くなるかもしれん。」

「ううっ、想像しただけで俺のハートが折れそうだよ…!」

緋勇がぶるっと震え、思わずその場にへたり込む。。落ち込む緋勇を見て、慌てて九龍が励ます。

「だ、大丈夫ですよ、緋勇さん! 別に後ろめたい事がある訳じゃないですし。ねっ!」

「ありがとう、九龍…。そうだよね、うん、大丈夫。元気出た。」

調子を戻した緋勇。立ち上がると再度熱を入れて語り始めた。

「という訳で、早速醍醐に電話だ。寮の公衆電話借りようっと。」

「自分のハートはガラス製な癖に、面白い事には全力で取り組む。それがたとえ他人の弱点でも突く。やはり鬼だな。」

と、優鉢羅のツッコミを他所に談話室の公衆電話スペースまでいそいそと移動する三人。
10円玉をチャリンと入れて、以前某亀忍者から入手した醍醐の携帯の番号を押す。因みに結構遅い時間である。
やはり迷惑である。

数秒。呼び出し音が鳴り、そして、

『はい、醍醐です。』

噂の醍醐本人が出た。

「あっ、もしもし、醍醐? 久しぶり!俺俺、緋勇だよ!」

『なっ、緋勇? 本当に緋勇か!? お、おい、今何処に居るんだ、というか何処からかけてんだ。いや、そもそも
何処で俺の番号を知ったんだ!?』

旧友からの突然の電話で驚く醍醐。だがツッコむ所はしっかり押さえている。流石である。

「落ち着いて醍醐。そんな事よりさあ。」

しかし緋勇も慣れたもので、醍醐のツッコミ空しく、何事も無かったかのように話を進める。

『そんな事か? …まあいい、お前はいつもそんな感じだったしな。』

醍醐も諦めているのか、それ以上追及はしなかった。気を取り直し、ふと疑問を口にする。

『そうだ。そう言えば京一も傍に居るんだろう?』

「…………え?」

途端に固まる空気。因みに緋勇は笑顔で固まっている。

『……いや、良い。話の腰を折って悪かった。続けてくれ。』

流石旧友、緋勇の性格を良く分かっている。その沈黙が全てを語っていると悟ってくれた。

「うん、あのさあ。話は戻るけど。醍醐、ハロウィンパーティやらな」

ブツッ。ツー、ツー、ツー。

「……言い終わる前に切られた。」

受話器を見詰めながら呆然とする緋勇。一部始終を見ていた優鉢羅がぼそっと一言。

「お前、過去にそいつに何したんだ。」

「え、別に何も…。あ、そうだそうだ。學園祭のオバケ屋敷。本気でビビッてる醍醐を可愛い言いながら夢中で
カメラに収めたなあ。」

「鬼か。今日でお前にこのツッコミをするの何回目だ?」

「だって、何か普段はシッカリしてる醍醐が精神的にわやわやになるとか、可愛い…。あ、後は小蒔がちょっかい
出すのも写真撮ってたかな。ふふっ、あの時は面白かったなあ。」

懐かしそうに目を細める緋勇を見ながら最後にもう一度、同じツッコミを入れた。

「鬼だ。」

遂に断言された。


結局そのまま押し問答をしていたらハロウィンを逃してしまい、非常に悔しがる緋勇が目撃されたという。




オマケ7〜夏真っ盛りだと思って下さい。※ゲームの時期的におかしいとかつっこんじゃ駄目!悪魔でifです、if(笑)〜


此処は天香學園。緋勇の居る場所は温水プールだ。緋勇の隣には異世界の龍神こと、優鉢羅も居る。

「夏だ! プールだ! 双樹さんだ!」

室内に緋勇の声がこだまする。

「…何だそのキャッチフレーズは。」

「良いの良いの。」

呆れる優鉢羅を余所目に、緋勇はといえば上機嫌だ。今回の緋勇は夏のプールという事で少々テンションが
高いらしい。しかし今の時間は真夜中である。そう、只今備品パクリ…もとい、學園内探索中なのだ。真夜中というのも
テンションの高さに拍車をかけているのかもしれない。

「此処に某亀忍者が居たら、きっと颯爽と水の上を水蜘蛛で歩いて登場してくれると思うんだよね。」

にやにやと水面を眺めながら分かる人にしか分からない台詞を吐く。

「氏神…。言っておくが、水蜘蛛なんぞでは水に浮かべないんだぞ?」

「ちょ、冷静かつ的確なツッコミ。でも、如月ならきっとやってくれるよ。」


「お前の期待に応える為に忍者は居る訳ではないと思うぞ。」

「優鉢羅、酷い!」





「にしても優鉢羅、夏だよー。天香學園ってさ、温水プール常備だから年中プールに入れるんだけど、やっぱ夏に
入るのが一番嬉しいよねえ。」

と、言いつつ緋勇は手に持った袋を振り回す。

「何? …まさか、お前、その袋…。手に入れた備品を入れる為だけじゃなく、水着が入ってるんじゃなかろうな。
…勝手にプールで泳ぐ気か?」

ハッと緋勇の持つ袋を凝視する優鉢羅。その眼は信じられないといった眼だ。だがしかし、返ってきた返事は悪い意味で
予想通りであった。

「当たりー。優鉢羅、なかなか冴えてるぞっ。だって、今日暑いじゃない? ほら、夜中にプール貸切って憧れない…?」

「正直、この不純物だらけの水に入りたいという人間の気持ちはよく分からんな。」

眼をキラキラ輝かせている緋勇を余所目に、優鉢羅がチラリとプールを一瞥する。

そこに聞き慣れた声が返ってきた。

「流石蛇、なかなかこだわるね。」

「あら? 見かけない顔ね?」

「蛇じゃない。……む、お前は一周目主人公。…と、……誰だ?」

出てくるなり暴言をかます九龍に律儀に返事をする優鉢羅。九龍とその後ろには生徒会の双樹が居た。

「あれ、九龍と双樹さん。…あ、そっか。優鉢羅は双樹さんに会った事無いんだっけ?」

「いや待て、確か…。」

と、今まで緋勇の代わりに調べさせられた仲間達の好感度リストを頭の中で反芻する。

「……ああ、生徒会の。」

漸く記憶と目の前の人物が一致したらしい。合点したのかゆっくりと頷いた。

「あら…。あたしの事を知っているのね。ふふ、光栄だわ。」

双樹こそ優鉢羅は見知らぬ人物(しかも不審者だ)だというのに余裕な笑みを浮かべている。

「で、二人は何で此処に?」

緋勇が九龍に疑問をぶつける。九龍は笑顔でハキハキと答え始めた。

「はい、緋勇さんの後を付けたら温水プールに向かってましたので、これはプールに入る気だろうと思いまして。」

「さらりとストーカー発言だな。」

「黙れ蛇。……で、何かあった際、緋勇さんが怒られたら大変なので、水泳部部長の双樹さんに許可を取りに
行きましたら、双樹さんも一緒に来てくれた所在です。」

台詞でも読むかの如く、つらつらと説明する九龍。とりあえずストーカー行為の事は全く悪いと思っていないらしい。
そして緋勇もたいして気にしていないのが従弟バカ所以たるところである。

「ふふ、夜一人きりで泳ぐ快感を知ってしまったら癖になるわよ。ただし、泳ぎたいならあたしにちゃんと言ってね。」

双樹は双樹で、特に怒った様子もなく笑っている。問題児主人公’sと、優鉢羅という思いっきり不審者な姿をした人物を
見ても未だ笑っていられるとは、なかなかのものである。いや、もしかしたら主人公’sの事は半ば諦めていて、優鉢羅は
九龍と同じ様な格好なので『同業者』なのかと思ったのかもしれないが。

「あのさ、双樹さんにちょっと訊きたいんだけど。」

心なしか目線を足元に落とした緋勇が尋ねる。

「あら、何かしら?」

「もしかして、双樹さんも、その……、泳ぐ気? その…水着で。」

見れば双樹は例の水着をしっかり着ている。

「あら、駄目かしら?」

からかう様な笑みを浮かべながら、そっと緋勇の傍に歩み寄る。そして自然に緋勇の腕に自分のそれを絡ませた。

「あ、あの、あんまりその格好で近付かないで…。」

ラブハンターな緋勇も流石にこういった押しには弱いらしい。顔を真っ赤にしながらそっと手を腕から離す。

「あら、《宝探し屋》さんは随分とシャイなのね。ふふふ。」

「ちょ、双樹さん…。俺の緋勇さんを誘惑しないで下さい。」

九龍が困惑顔で双樹に抗議する。どうやらこちらも強くは出れないらしい。

「あら…。本当、噂通りの熱愛振りなのね。妬いちゃうわ、ねえ?」

と、妖艶な笑みを浮かべると、九龍が困ったように頭を掻く。

そんな三人を退屈そうに見ている優鉢羅。ふと、緋勇がそんな優鉢羅の態度に気付く。

「あれっ、優鉢羅。暇?」

「ああ。」

即答である。

「うわ蛇ったら、協調性が無いというか…。」

「興味が無いからな。」

九龍の暴言もさらりと遮る。

「えええ、じゃ、じゃあ、優鉢羅はこの双樹さんみたいなダイナマイトボディが側に居ても何とも思わないの?」

相変わらず顔を赤くしながら緋勇が問う。

「……氣の器でしかない肉体自体に、興味は無いな…。」

「なっ。」

三人の声がハモる。緋勇だけでなく、九龍、双樹も声を上げたのだ。

「お前…こんな美人捕まえてそれは無いわー。ほんと無いわー。」

「? 何がだ。」

そもそも人間に興味を持てと言われても、と優鉢羅が反論する。

「やっぱり氷とかき氷にしか興味が無いんだなあ。」

「だから違うと言ってるだろう。」

脱線する三人。だが双樹は俯き、手をわなわなと震わせている。双樹の異変を察知した三人が彼女を見る。
双樹は俯いたまま、消え入りそうな声でぼそっと呟いた。

「あたしのこの香りと身体を持ってしても参らない男が居るだなんて…。しかも不審者なんかが。」

「待て、今お前さらっと本音が出たぞ。」

どうやら注目され過ぎるのも困りものだが、されないならされないで、それもまた悔しいらしい。乙女心とは複雑である。

「じゃあお前もあれなの? 喪部と同じで、すどりん=美形派?」

話題を変えようとしたのか(失敗しているが)九龍が喪部の話を持ち出す。

「あれは俺にも分からん。」

と優鉢羅はきっぱりと言った。趣味は人其々である。

そんなやり取りをしていたら、双樹がブツブツ言いながら胸の谷間から小瓶を取り出す。

「ちょ、ちょっと! 双樹さん! なんてとこに瓶潜ませてるの! …じゃなかった、何やってんの…!」

直視できずに思わず手で顔を覆いながらも律儀にツッコム緋勇。双樹は顔を上げると妖艶な笑みを浮かべながら
説明し始めた。

「うふふ…。この香りは特殊でね。例え人外だろうと、なんだろうと、たちどころに魅了させてしまうのよ…。」

「えええっ、それって、俺達も危険じゃないか!」

「このままではあたしの面子に関わるのよ、芳香師としても、女としてもね。」

双樹がいつになく勝気な笑みを浮かべると、きゅぽっ、と小瓶の蓋を外した。途端にふわっと甘い匂いが室内に満ちる。

「うわわわわ、何か防ぐ物無いか! マスクマスク!」

慌てて袋を漁る緋勇と九龍。しかし、優鉢羅はといえば、ケロリとしている。

「……あれ? 優鉢羅、平気…なの?」

驚きの余り、思わず袋を漁る手を止めてしまう二人。優鉢羅はふう、と一息吐くと。

「全く。問題ない。」

と、ただ一言答えた。

「なっ、何なのよ、この香りが効かないなんて…! 覆面? 覆面の所為なの? それとも単に鈍いの?」

流石の双樹も驚きと苛立ちを抑えきれないらしい。

「人間の能力が俺に効くと思うか。」

苛立つ双樹を一瞥しつつ、少しだけ誇らしげに優鉢羅が言い放った。

「あ、そうか。優鉢羅、龍神様なん、だっけ。あ、やべ、マスク探すの忘れ、て……。」

だんだん濃くなる香りの中、緋勇と九龍が頭を押さえる。もろに香りを吸ってしまったらしい。

「どうするんだ、これ。こいつらだけでなく、他の奴等にも効いてしまうんだろう? 暫くプールとやらが
使えないのではないのか。それでは困るのはお前も一緒だろう? この香りはいつまで効果が続くんだ?」

しゃがみ込む二人を見下ろしながら優鉢羅が双樹に声をかけた。

「蓋を閉めれば良いだけの話よっ。ほらっ、換気! ああもう、悔しいわね…!」

悔しそうに小瓶の蓋を閉める双樹。

「そこで怒る意味が分からんな…。」

シラけ顔で呟く優鉢羅。

「おい、お前等。しっかりしろ。」

容赦無くべしべしと主人公’sの頬を叩く。恐らく気付けのつもりだろう。私情も多少入っているかもしれないが。

そんな優鉢羅に益々腹を立てたのか、

「煩いわね、もう良いわよ。プールは使えないし、あたし帰るわ。後換気して、ちゃんと鍵をかけてきてね。」

と、言いながらそのまま方向転換する。どうやら本当にこのまま帰るらしい。

「お、おい。どうするんだ、この二人。」

少しだけ慌てた優鉢羅が慌てて双樹の背中に声をかける。まだ意識が朦朧としている二人を担いでいくのは流石に骨が折れる。

すると双樹はピタリと歩みを止め、こちらをくるりと振り返ると一言。

「貴方…本当に鈍いのね…! 今、あたしが怒っているのが分からないの? こっちは今そんな気分じゃないのよ…。
そんなんじゃモテないわよ!」

と、言うだけ言って、再度歩き出してしまった。

「な…っ。」

その剣幕に思わず優鉢羅も口ごもる。自分より数倍も年下の人間にモテない発言をされたのが地味に効いたらしい。
その言葉はどんな香りよりも強烈に優鉢羅の心に突き刺さった。暫くプール内で倒れている二人を見下ろしながら某然とする
優鉢羅だった……。



後書き
本編なんちゃって黄龍に双樹さんを出すのをころっと忘れていたので(酷い)今回出ていただきました(^^ゞ女性に口喧嘩で
勝てる筈もなく…(苦笑)ほんとはもう一つ違う話とオチがあって、水面を歩きたいと駄々をこねる緋勇に手を焼いた優鉢羅がプールを
凍らせる→緋勇共々双樹さんに怒られる。媚薬を探してきてと頼まれる緋勇→優鉢羅にも効くのか試してみようとする話、ってのも
あったんですが、上手く話を繋げれなかったのでボツに。緋勇は隠れ忍者好きだと良いなと妄想。てかそれ私なんですが(^^ゞ

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