なんちゃって黄龍妖魔學園紀

登場人物

>>黄龍の器こと緋勇 龍麻…人間違いで高校生活を再度送る羽目になった黄龍の器。
砂漠で殺されかけたりなんだりした時点で「あっ、こりゃ駄目だ。」と気付いた結果、
この機会を天からの贈り物と決め込む。別名自棄っぱち。自棄なんで時たま暴走が激しい。
義理の従弟こと葉佩九龍の思いがけなかった再会にビックリしている。

>>優鉢羅(うはつら)…東京魔人學園符咒封録出演。本来は八大龍王の八番目。雨を司る龍神…の筈だが何故か
符咒封録では焔羅様の部下に。(焔羅様→閻魔様→仏教繋がりだろうか?)
専ら突っ込み役。緋勇が天香學園に転校する際一緒に連れられてきた。そもそも別世界の
人物なのに何故緋勇と一緒に居るかは不明。噂では「宝探し屋っぽいっつうーかもうそれが天職だよお前!」とか
なんとか言うなり引っ張られてきたらしい。だもんでかなりご立腹。昼間は緋勇の自室にこもったり
緋勇の我侭で教室の天井裏へ隠れたり、一人遺跡に突入させられたりと散々な役回り。
時たま緋勇の暴走に嫌気がさして焔羅様や同僚の司命・司録に手紙を送ったりしてる。

>>JADEこと如月 翡翠…どう見ても狙ってるとしか思えない白装束から遂に黒装束へと大変身。
しかし相変わらずのぼったくりバーのような値段に遂に「朱日ちゃんに言いつけてやる!」が緋勇の口癖になる。
學園内を行ったり来たり出来るので連絡役っぽいのをやっている…というかうっかりお茶の間で口が滑った所為で
壬生や時雨、そして御門へと知られる事となる。

>>ゲートキーパーこと御門 晴明…如月から居所を聞いた直後、ロゼッタ協会へと依頼を出す。九話辺り。
その内容は本当に儀式にたこ焼きが必要なのかと首を捻るものばかり(やってる本人は画面前でほくそ笑んでいる)
いつかいきなり真っ黒いリムジンで遊びに(?)行ってやろうと企む。

>>レクイエムこと壬生 紅葉…如月から緋勇の事を聞くが壬生自体は特に興味が無いらしい。
ただ緋勇の転校までの経緯が笑いのツボに入ったらしく時たま思い出しては笑っている。

>>劉 弦月…緋勇の事は姉の瑞麗からの電話で聞く。緋勇と義兄弟になれるチャンスかもと気付いたところで
姉に緋勇を勧めてみるが見事小言を喰らう。こうなったら何が何でもと密かに何かを計画している様だ。

>>蓬莱寺 京一…中国で緋勇とはぐれて数ヶ月。携帯を持っていないのを非常に悔やんだ。
仕方ないので緋勇を探すべく自分の第六勘を頼りに日本に戻ってきている。

>>本来の転校生こと葉佩 九龍…憧れの従兄こと緋勇が天香学園に転校したと聞き、いてもたってもいられず
追いかけ入学。何で24の従兄が高校に転校するんだよとはちっとも思わなかったらしい。ちゃっかり同クラスへと収まる。
それ以降暴走従兄の最強タッグパートナーは自分だと自ら称する。



謎の転校生(と+α)


柳生事件から経つ事早6年――、

「皆静かに。」

此処は天香學園。教師の雛川の声が教室に響く。

「今日から私達と一緒に勉強することになりました。転校生の緋勇 龍麻君です。皆、仲良くしてね。」

「これ高校生違うだろ――!!」

それと同時に全生徒の声も教室に響いた。



――2004年、黄龍の器こと緋勇は再度高校生をやっていた。エジプト、カイロでの人違いの一件からあれよあれよと言う間に
時間は経ち、気が付けば此処、天香學園へとやってきていた。もうこのまま行けるトコまで突っ走る!と
決めた緋勇はそのまま学園へと居座る事になる。



「…おい。いつまでこんなバカげた事をやるつもりだ。」

転校初日の夜。緋勇へとあてがわれた寮の部屋から声が聞こえる。どうも緋勇に話しかけているようだ。

「まぁまぁ、落ち着けよ優鉢羅。別に勝手にあっちが間違えてるんだし? バレるまで楽しめば良いじゃないか。」

「良くない、ちっとも良くない。第一何故俺が一緒に連れてこられなきゃいけないんだ……。」

優鉢羅、と呼ばれた男性は眉間に深い皺を寄せて抗議した。怒鳴りはしないものの、大分立腹している様子だ。

「いやほら、お前見るからに《宝探し屋》!って感じだし。ほら、新天地で一人ぼっちって寂しいじゃないか!」

「……して、その本音は?」

「いやー、周りが皆10代ってキッツイと思わない?」

「…………。」

だからなんだ。別に俺は関係無いじゃないか…、と更に眉間に皺を寄せる優鉢羅を他所に緋勇は続ける。

「あ、知ってるか? 保健室の先生って劉の姉さんなんだってよ。美人よなー、ルイ先生。」

「第一話では得られるはずも無い情報を何故…。何処でそんな情報手に入れた?」

「俺の6歳下の従弟。あいつも此処に居るんだ。いやー、ビックリしちゃったよ。まあ序に
今までの経緯を話したら、何と! あいつもロゼッタ協会の一員だって言うじゃないか。
こりゃもう學園生活をエンジョイしなさいっていう神のお告げだと俺は確信したね!」

「一週目の主人公か…。何なんだ、あいつは。お前には笑顔で話してた癖に、俺を見るなり思いっきり睨みつけやがった。」

「人見知りが激しいからなぁ、あの子は。」

昼間の事を思い出し、顔を曇らせる優鉢羅とは別に緋勇はホンワカ笑顔でそう言った。
その顔は従弟が可愛くて仕方が無いといった顔だ。

「ば…、バカだ! バカだバカだと思ってたけどお前本当のバカだな!」

「そうバカバカ連呼するなよ。九龍から色んな情報を聞けたお陰で學園の事とか人物の事とか
分かったんじゃないか。それにほら。此処って何か不思議な遺跡があるらしいから。何かすっごいお宝見つけて
焔羅の爺ちゃんにお土産持っていったら、喜ぶんじゃないかな〜?」

「――う。」

焔羅と聞いて優鉢羅が言葉に詰まる。優鉢羅にとってやはり焔羅様はかけがえの無い上司。
その上司が喜ぶと言われるとどうにも迷ってしまうのだ。

「し、しかしだな…。俺は別世界の―、」

「はい決まり、もう決まった! ほら、明日は早いんだからもう寝るよ! 明日は九龍から色々教わるんだから!」

躊躇いつつも尚も抗議する優鉢羅の言葉を遮って緋勇はとっとと部屋の電気を消してしまった。

「…………。」

帰りたいな、と思わずにはいられない優鉢羅がただそこに残されたのだった――。


蜃気楼の少年とパンドラの箱
長い1日だった。取手の悩みを解決しようと八千穂や皆守と遺跡に潜ったり、更によう判らん
怪物と戦ったり。―まあ、取手のプリクラは貰えたので良しとしよう。


「―という訳で、今日のゲストは九龍と取手君だ♪」

と、緋勇が座布団を取り出す。

「……どういう訳だ。ここはテレ○ンショッキングか? いつからお前はタ○リになった。」

そんな緋勇を冷ややかに見下ろしながら優鉢羅が突っ込む。

「おっ、優鉢羅詳しいね。」

そう茶化したのはお茶を持ってきた九龍だ。

「…昼間外に出るに出られず部屋にこもってたらいつの間にかな。」

「うわ、優鉢羅ってば主婦みたい。」

「誰の所為だ、誰の。」

そう反論する優鉢羅は心底悲しそうだった。

「あ、今度は皆の好物探しも頼むよ!」

「自分で訊けっ!」

そこにおずおずと取手が口を挟む。

「あ、あの…。僕なんかお邪魔してて良いのかな…。」

そんな取手に九龍と緋勇が言った。

「何言ってんだよ、鎌治! 俺達友達だろ!」

「そうだよ取手君。同じ遺跡から見つけた卵のオムレツを食べた仲じゃないか。」

2人の言葉に取手は嬉しさの余り言葉を失った。

「はっちゃん…、緋勇君…。」

と、ここで痺れを切らしたのか優鉢羅が先を促した。

「何でも良い。とっとと進めろ。俺は行くぞ。」

身支度を整える優鉢羅に慌てて緋勇が尋ねる。

「え、こんな夜中に優鉢羅、何処行くの!?」

そんな緋勇に優鉢羅は冷ややかな視線を送る。

「…お前が俺に押し付けたギルドの依頼をこなしにだよ。」

と、思い出したのか緋勇がポンと手を打った。

「…ああ! 頼むよ、鼈甲の髪留めとかお宝写真とか竜巻ベルトとか八卦碑が欲しいから。
いやー、新宿の魔女、どう見ても裏密だもんなー、いやぁ世間って狭いなぁ。」

一人思い出に浸る緋勇に優鉢羅は弱々しく反論した。

「…自分で行け、自分で…。」

「あ、壷の中身も忘れず取ってこいよ?」

「緋勇さん、水を差すようで申し訳ないんですが、こいつ数学スキルとか足りるんですか?」

と、ここで九龍が馬鹿にした様に口を挟む。そんな九龍をチラと睨みながら冷やかに優鉢羅が言った。

「たかが数年生きた小僧に言われたくは無いがな。…まぁ、全て氷点下まで凍らして
その後叩き壊せば対外のものは何とかなるだろう。」

その言葉に緋勇が慌てる。

「ちょ、ちょっと待て! そんな事したら中身も壊れるだろう!」

焦る緋勇を実に嬉しそうに眺めながら更に優鉢羅は続けた。

「安心しろ、貴重品は全て焔羅様に贈る。」

「俺に渡せよ!」

「フッ、お前が前回言った事だろう? 俺はそれを実行するまでだ。」

「復讐だー! これ軽く復讐だー!」

「緋勇さん落ち着いて下さい! re:chargeではアイテム引き継ぎが出来ますから、序盤は何とかなりますよ!」

と緋勇信者な九龍がかなり的外れなフォローを入れる。

「まあそんな事より。」

「そんな事呼ばわりぃ!?」

優鉢羅の言葉に更に落ち込む緋勇。

「…良いから聞け。今日はこいつと話す為に呼んだんだろう?」

と、優鉢羅が取手を指差した。ここで漸く本来の目的を思い出した緋勇が落ち着きを取り戻す。

「あ…っと、そうだった。」

「フン、そう言う事だ。…じゃあな。」



―かくして経つ事数時間―



「その…、2人にはなんて御礼を言ったら良いか…。僕は口下手だから上手く言えないけど…、本当に…ありがとう。」

おずおずと、だがしっかりと心を込めて取手が礼を言う。その顔は言葉通り憑き物がおちたかの様な笑顔だ。

「気にするなよ取手君。俺がした事はあくまでちょっとした手伝いで大した事を
した訳じゃないんだ。礼を言うなら八千穂さんや皆守君、そしてルイ先生に言ってあげなよ。
君の事を皆本当に心配していたんだよ。」

「そうだよ、鎌治! きっとやっちー達、お前のその笑顔を見たら喜ぶよ!」

それに2人も笑顔で応える。

「しかし取手君がいきなりあんな姿で現れるとは思わなかったなあ。いやあれにはびっくりしたよ。」

と、ここで緋勇が思い出したのか遺跡での出来事をボヤく。

「え…、何のことだい?」

「何のことですか? 緋勇さん。」

取手と九龍はキョトンとした顔でハモりつつ問い返した。

「えぇっ!? 無かった事にされてる!?」

そう、既にあの事は取手の心のパンドラの箱へと封印されていたのだ。そしてそれは
緋勇の何気ない一言で開けられてしまった。…果たして伝説通り最後に希望が残るのかは分からないが。

「…うっ、うぅ…、頭が痛い…。」

と、此処で取手が急に苦しみだす。

「あわわ、トラウマ! トラウマ発動しちゃったよ!」

「駄目ですよ、緋勇さん! 鎌治は妖精並のピュアっ子なんですから刺激しちゃあ!」

窘める九龍と慌てて謝る緋勇。

「ご、ごめんよ!」

その時、丁度優鉢羅がクエストをこなして帰ってきた。

「今帰った。って、…………っ!?」

ガチャリとドアを開けた優鉢羅はその場で固まった。その場はコメントし辛い修羅場となっていたのだった。
先ず、頭が痛いと床に倒れる取手とそれを支えて「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」と喚く九龍。
そして良い歳こいてオロオロとする緋勇がそこに居たからだ。優鉢羅にはその場をただただ傍観するしか出来なかった……。



あの炎をくぐれ!そしてレトルトカレーはタブーだと気付け!
先日に続き椎名を仲間にした緋勇。救われた椎名に喜びつつ、その日を終える筈だのに、
――緋勇は、悩んでいた。


「…なあ、ちょっと訊いて良いか?」

「…何だ。」

どうせまた碌でもない事なんだろうと優鉢羅は思いつつもとりあえず返事をする。

「あのさぁ、九龍に貰ったバディ好物リスト、あるだろう?」

そういえばあいつは一周目の主人公なんだからそんなリストがあってもおかしくないな、と
思い優鉢羅は頷いた。

「それにさぁ、皆守君の好物もキチンと書いてあるんだけど、何でか毎回怒られるんだよねぇ。」

「……? どれ、見せてみろ。」

あの海草頭は尤も覚えやすいカレー類だった筈だ。それがどうして怒られる結果に
なるんだ……? と疑問に思った優鉢羅がリストを見る。
そこには短く一行で。


皆守好物→レトルトカレーそのまんま渡しちゃって下さい。


―と書かれていた。

「違ーう!!!」

あまりの憤りに優鉢羅がリストを床に叩きつける。

「えぇっ!? だって九龍がくれたんだし、嘘な筈は…!」

優鉢羅のキレっぷりに驚きつつも床のリストを拾いながら反論する緋勇。

「お前の従弟はあいつが嫌いなのかっ!?」

「そ、そんな! 九龍は皆守君は取手君と仲良すぎてサブマシンガンで撃ちまくりたい位
大好きだって言ってたのに! 嫌いな筈無いだろう!?」

「微妙だ! その位置づけ凄い微妙だぞ! あぁもう、そのリスト貸せ!」

そう言って優鉢羅は緋勇からリストを引っ手繰った。

「良いか? あの海草頭は無類のカレー好きだ。」

「ああ、そういやマミーズでもそればっかり食ってたね。」

「そして奴にはどうもカレーに対して並々ならぬ拘りがあるらしい。だから
カレーをやる際はとにかく調理していれば大丈夫だ。」

「ふんふん。あ、じゃあ取手君は? 好きな物は分かるんだけどさ、嫌いな物とか分からなくて。」

「あいつは紅葉肉や鹿やわらか煮だ。他に今のところ出てくる奴等の好物と嫌いな物は―。」

と、次々とバディの好物や嫌いな物を書き上げていく優鉢羅を緋勇はジッと見つめ、一言。

「優鉢羅、詳しいね。」

「まあな。」

「…優鉢羅、ストーカー?」

「前回調べろっつったのは貴様だぁぁっ!」

「…あ、あぁ。ごめんごめん。すっかり忘れてた。」

「全く…。」

「そういや、優鉢羅って飯とか食うのか?」

「……何をいきなり……。」

「だって、龍王だろ? やっぱ霞とか食ってんのか!?」

「俺は仙人か。―そうだな、別段何も食わなくても生きてはいけるが…。」

「いけるが? 何? やっぱ熱い物とか駄目?」

と、キラキラと目を輝かせる緋勇にげんなりしつつ、

「…いや、別に…、普通に水を飲んだり…。」

「…なんだ、普通だね。」

あからさまにガッカリする緋勇に覆面取って脅してやろうかとか本来の姿を現して氷付けにしてやろうかと
思った。そして、いい加減帰ろうと本気で決意する優鉢羅であった――。



明日への追跡と過去の思い出
「俺ね、思うんだけど。」

夜、無事朱堂を仲間にした緋勇は風呂上がりで濡れた頭をタオルでガシガシ拭きながら呟いた。

「何がだ。」

優鉢羅が応える。

「すどりんを見ているとさぁ、昔戦った敵を思い出すんだよね。」

「お前の周りはオカマが集まるんだろう。そういう《宿星》だと思って割り切れば良い。」

と、優鉢羅が緋勇を見ずに素っ気なく応える。如何にも興味無い、といった感じだ。
そんな優鉢羅を緋勇は軽く睨む。

「何だよそれ。お前全国のオカマに失礼だぞ、謝りなさい。」

「…ムキになるとこがそこか?」

やっぱりこいつおかしいな…、と優鉢羅が呆れる中、緋勇は更に続ける。

「それにさ、俺、その昔の敵もすどりんもどっちかってーと、好きなんだよね。何か一途で健気じゃない? 
今時ああいう女らしさを持った女性のが少ないよ。」

流石はラブハンターだ。きっとその場も《愛》連打したに違いない。ドン引きする海藻頭(@皆守)が
目に見えるかの様だ。

「そういうものか。…まぁ、俺には人間の美醜なんぞ、とんと分からんがな。」

「優鉢羅は氷像とかき氷の美醜しか分かんないもんな。」

「…そんな訳あるか。」

第一かき氷の美醜って何だ、と更に突っ込んでいたら

「何だよ、優鉢羅ってば喪部と一緒じゃん。」

と、ノックと共に九龍が入ってきた。

「あ、九龍。いらっしゃい。」

それに笑顔で応える緋勇。従弟バカ全開の笑顔だ。

「喪部って…、これまた四話では影も形も出ない奴を。」

九龍の出現に溜め息を吐きながら一応、優鉢羅が突っ込む。

「何たって俺、一周目主人公だからな!」

と、得意気に語る九龍だったが、確かこいつは喪部とやらをえらく毛嫌いしていた筈だ。
そいつと自分を比較に出すということは…、

「お前、俺の事嫌ってるな…?」

そう言うと九龍はさも当然、と言わんばかりに胸を張った。

「当たり前だ。毎日毎日、緋勇さんと同じ部屋で寝泊まりだなんて羨ましい事しやがって。」

…別に人間の若造に嫌われようが優鉢羅にとっては痛くも痒くもないが、その嫌う理由に納得がいかない。

「同じ…、と言っても俺の寝床は天井裏なんだが。第一、俺は夜中に活動するんで一緒もくそも。」

それに《一緒に居る》じゃなくて《一緒に連れてこられた》のだ。この辺を勘違いされると激しく不本意だ。

「あっ、そうそう。すどりんの好物と嫌いな物調べ、そしてクエストこなしよろしくな! 明日は
一時限目から体育だからもう寝るわ。じゃあお休み。」

と、ここで緋勇が毎度お馴染みの勝手なお願いをして、自分はさっさと布団に入ってしまった。

「…ほら見ろ。お前、こんな奴と同室で嬉しいか? 無口で温厚とかいう設定はとうの昔に
砂漠に置いてきて、現在頭のネジが外れたかのような暴走っぷりたぞ、こいつ。」

呆れる優鉢羅を余所に、九龍はと言えば目をキラキラと輝かせながら叫んだ。

「緋勇さん…! 万全の体調で、尚且つ真面目に授業を受けるなんて…! 正に高校生の鑑だよ…!」

と、途端にピロリン♪と好感度アップの効果音が鳴り響く。従兄もバカなら従弟もバカだった…! 
緋勇は高校生違うだろ! と突っ込む気力すら失せた優鉢羅は、その場に力無くうなだれたのだった……。


星の牧場…ってネタに困る位普通なタイトルですね。でもこのタイトル実はかなり好きです。
その夜、緋勇は自室で唸っていた。

「う〜ん。」

「煩いな、何をそんなに唸っている。」

見かねた優鉢羅が書きかけの手紙(焔羅様宛)から顔を上げて緋勇に尋ねる。勿論場所は天井裏からだ。

「ああ、ごめん、優鉢羅。…そうだ、この際優鉢羅に相談してみようかな。…いや、でもやっぱり。」

「…一体何だと言うんだ。気持ち悪いな…。」

天井裏から降りてきて緋勇の先に目をやると、そこには一通の手紙。

「何だ、手紙か? お前の家族からか。」

「いや、伯父さんは俺がここに居ることは知らないし。」

そういえばそうだった。この學園に居るのも偶然であって(優鉢羅には良い迷惑だが)緋勇の
伯父とやらが知る由も無いのだ。…いや、普通なら連絡の1つや2つしてても良さそうなものだが、
こいつにそんな概念は無い。まあ、人間違いで日本に戻ってきた上、そのままもう一度高校生やってます☆
…とは流石に言い辛いか。

「ではその手紙は何だ?」

「劉からだよ。」

「? …保険医か?」

「ああ、いやいや。ルイ先生でなく弟の方の劉。俺の高校時代の仲間なんだ。」

「…弟が居たのか。」

優鉢羅はさして驚くでもなく、淡々と言った。(興味が無かったと思われる)

「で? その弟がどうした。」

「昼間さあ、八千穂さんを保健室に運んだ際、ルイ先生から渡されたんだ。『これは恐らく君宛てだ。』…ってね。」

「それで?」

「どうやら劉ってば、ルイ先生との電話のやりとりで俺の事を知ったらしいんだよー。それで俺宛に、これ。」

「…?」

ツイ、と目の前に差し出された手紙を受け取る。優鉢羅は暫し黙ってそれを眺めた。

「……は? 何だこれは。」

優鉢羅が珍しく素っ頓狂な声をあげる。

「ね? 不思議だろう? 最近の近状を綴るでもなく、手紙の始まりから終わりまで、
全部話題はルイ先生の事なんだ。」

緋勇は身を乗り出して手紙を上から覗き込んだ。

「…不思議…というか…、これは…。いや、俺はその、よく人間の事なぞ分からないんだが…。
何かこれは…、意味があるのか?」

混乱の為、うまく言葉が出てこないらしい優鉢羅が逆に緋勇に尋ねる。

「…人間の俺にだってそれは分からないよ…!」

緋勇は頭を抱えた。


〜翌日〜


「―で? 今日は私に何の用かな? …と、言わなくても大体分かってはいるがな。」

緋勇は保健室に居た。勿論、優鉢羅は天井裏で息を潜めている。(手紙の内容が余程気になったらしい)

「昨日の手紙なんですが…、考えても考えても劉の意図が全く分からないんです。結局昨日眠れなくて!」

頭を抱える緋勇を余所目にふう、とルイは煙管から煙を吐くと例の手紙を摘み上げた。

「これはな、私とお前をくっつけようという魂胆なんだよ。」

「は、はい?」

思いもよらない返答に思わず声が上擦る。

「あの愚弟はな、お前がこの學園に居るのを知った途端、急に見合い話を持ち出してきてな。」

「…はぁ。見合い、ですか。」

「どうしてもお前と義兄弟になりたいんだとさ。ああ勿論キチンと断っておいたし、
愚弟にも少しお説教をしておいた。…すまないな、勝手に話の種にしてしまって。
気分を害してしまったなら謝る。」

申し訳無さそうに謝るルイを見て慌てる緋勇。何だかんだ言って彼女は弟想いなのだ。

「いえ…、それは良いんですが…。」

「そうか、良かった。これからも弟と仲良くしてやってくれ。」

ホッと、ルイの顔に安堵の笑みが零れた。

「いえ、その。」

「…何だい?」

しかし、口篭る緋勇を見て何事かと顔が強張る。緋勇はルイの両手を
そっと握ると

「断る前に実際俺と付き合ってみませ―、ぐふっ!」

と、言い切る前に見事に緋勇のアゴにルイの裏拳が決まった。



「―ところで緋勇。今日は寒いな。」

長い沈黙を打ち破り、最初に口を開いたのはルイだった。

「…はい? そ、そうですか? 今日は結構暖かい日だと思うんですが。」

アゴを撫で擦る緋勇を尻目にルイが続ける。

「いや、寒いよ。」

そこで煙を一吹き。暫し間を空けて、それからゆっくりと次の言葉を繋げた。

「緋勇。お前、今日は誰と一緒なんだい?

緋勇の背に悪寒が走る。

『――っ!!?!?』

ルイの目線は明らかに天井裏を追っていたのだ。…只の人間に感付かれるとは。
これには流石に驚いた。あの保険医は侮れないな、と後日優鉢羅は語った。


時をかける少女…と時空を超えてしまった龍王
「…優鉢羅、優鉢羅居るかい?」

夜、緋勇の部屋(の天井裏)で優鉢羅が一人で居た時だった。名前を呼ばれ、ふと気配を
感じてみれば、それは見知った(感じ慣れた?)緋勇の《氣》。しかしどうも様子がおかしい。

「…氏神か?(優鉢羅は未だに緋勇を氏神と呼ぶ)どうした。」

返事をしてみるが、何故か中に入ってこようとしない。変だと思い部屋に降りてみると、

「緋勇さんが困ってるだろ、とっとと開けろよ!」

と、九龍の罵声が飛んできた。

「……。」

苛立ちを覚えつつ、仕方なく扉を開けると、そこには仁王立ちな九龍とその後ろに隠れる様に立つ人影。

「…何だ、氏神。何かあったか。」

優鉢羅がキョトンとしていると九龍が凄い剣幕で掴みかかってきた。

「何かって、この姿を見れば一目瞭然だろっ!」

この姿とは六話で例に洩れず、七瀬と入れ替わった緋勇の姿だった。しかし優鉢羅は首を捻るばかりだ。

「姿…と、言われても俺にはいつもの氏神にしか見えないが…。」

そう、優鉢羅がいつも見ているのはあくまで緋勇の《氣》や《魂》であって、入れ物。
つまり肉体では無いのだ。

「う…、優鉢羅ぁっ! お前だけだ、分かってくれるのはー!」

それを聞いて緋勇が嬉しさの余り優鉢羅に抱き付く。それを言うなら一周目主人公な九龍やルイ先生、
そして白岐さんだって分かったじゃないか、と此処で突っ込んではいけない。人間心細い時は
誰かに縋りたくなるものなのだ。勿論緋勇はルイ先生や白岐さんにも抱き付いては驚かれていた。

「…止めろ、離せ。」

眉間に深い皺を寄せつつ、緋勇をひっぺがす。

「緋勇さんに何て言い種だー! っていうか七瀬の体で、しかも緋勇さんに抱き付かれるだなんて
羨ましいな、こん畜生!」

ここで九龍の怒涛の突っ込みが飛んだ。



「…つまり? その七瀬とかいう娘にぶつかった際、姿が入れ替わった訳か…。」

「そうなんだよ。九龍に前々から忠告されてたのにも関わらず、これさ…。本当に七瀬さんには悪い事をしたよ…。」

しょんぼりとうなだれる緋勇。

「しかしお前、あっちでも似たような格好してなかった…ぐふっ!」

と、優鉢羅が全部言い終える前に緋勇のラリアットが喉に決まる。因みに、ここで優鉢羅の言う
“あっち”とは東京魔人學園符咒封録を指す。緋勇は噎せる優鉢羅の口を手で塞ぐと九龍には聞こえない様な
小声でまくし立てた。

「余計な事覚えてるな〜。そもそもあの姿の事は言うな。女主人公は無かった事にしたい魔人の暗黒時代なんだぞ。」

「…の割には大分楽しんでいた様に見えたのだが…ごほっ!」

更に鳩尾に一発決まる。この体が七瀬のだというのが嘘の様な重い一発だ。

「あれは若かったからな。若気の至りとかいうやつだ。兎に角忘れろ。さあすぐ忘れろ。とりあえず九龍には絶対言うな。」

と、ここまで一気に言うと緋勇は優鉢羅の目を見ながらニヤリと笑ったが、緋勇自身の目だけは全く笑っていなかった。

「…必死だな、お前…。」

呆れつつも緋勇の気迫に圧され、頷いてしまう優鉢羅。

「…緋勇さん? どうしたんですか?」

訝しげにこちらを窺う九龍に慌てて緋勇は笑顔を向けた。

「ああ、いや九龍、何でもないんだ。さあ、武器(黄龍甲である)も持ったし、とっとと真里野君の息の根を止めてこようか。」

「そうですね緋勇さん。俺も手伝いますよ!」

「殺してどうする。」

一応、形だけ突っ込んではみるものの、この暴走従兄弟達が聞く筈も無いので、とりあえず天井裏に戻る事にした。

「じゃあ行ってくるよ、優鉢羅!」

「戸締まりしとけよ!」

「良いからとっとと行け。煩くてかなわん。」

「よし、行くぞ九龍!」

「はい緋勇さーん!」

段々遠ざかる声を聞きながら夜は更けた。


―数時間後―


「…遅いな…?」

いつもならそろそろ帰ってきても良い時間なのだが、一向に帰ってくる気配が無い。何かあったのか? と
疑問が頭をよぎったが

「…まあ、良いか。」

その疑問はすぐに頭から消え去った。


翌朝、何故か頬を真っ赤に腫らした緋勇と九龍が帰ってきた。帰るなりバタリと倒れた緋勇の口から

「話を聞いて、八千穂さん…。」

と微かに聞き取れたという。

地獄の才能とラブハンターの才能

「優鉢羅…、恋ってなんだろうな…。」

夜、未だ小雨の降る中、自室にて緋勇が天井に向かって(正確には天井裏の優鉢羅に向かって)呟いた。

「…濃い?」

突然の事に話しかけられた優鉢羅が眉を顰める。天井裏からヒョイと下り、

「質問の意味が分からないが。濃い? 何が濃いんだ。」

「嫌だな優鉢羅。俺の言ってるのは恋愛の方の恋。」

「…ならば尚更俺には分からん。そういう質問はあの従弟にでもしたらどうだ。」

と興味も無いので素っ気なく答えると、

「…役に立たないな…。」

緋勇があからさまにガッカリした様子で舌打ちをする。

「……。」

人でない自分に理解出来ない質問をされた上、これまた理不尽な反応をされて流石にカチンときたので、

「…何があった。詳しく聞かせてみろ。」

と言ってしまってからハッとする。…乗せられていないか?と。しかし時既に遅し、緋勇は目を輝かせると

「え、聞いてくれるの!」

と身を乗り出してきた。

「……。」

今日ばかりは誰か部屋に来ないものかと思い、チラと扉に目をやるが、扉の前に気配は無い。

(仕方ない、適当に聞き流すか…。)

と腹を括って一つ溜め息を吐いてから、床に腰を降ろした。

「…で? 鯉、だったか。」

「だから違うって。」

「その鯉がどうした。」

「…優鉢羅、実はどうでもいいと思って聞き流してない?」

「まさか。」

「……。まあ良いか。あのな、今日墨木くんを仲間にしたんだけど。」

「…それが?」

「彼と初めて会った際、激しい衝撃を受けたんだよ。こう、ズドンときたっていうか。」

「…撃たれたからではないのか?」

「やだなぁ、そんなんじゃないって。ああいうのを体に電撃が走るって言うのかな。」

「…銃撃だろう?」

「それに恋は出会いが肝心だって言うじゃないか。」

「知らん。」

「んもう、一々茶々入れるなよ。聞けって。あの出会いを! 小雨の降りしきる中、下駄箱で二人きりの会話!
更に次に会った時、実は敵同士だった二人、悩んだ末の和解! うっわ、何この仕立てられた様なシチュエーション!
これはもうデスティニーだね! 運命だよ、運命!」

「で、ですてぃにー…?」

うっとりと宙を見つめる緋勇。さしもの優鉢羅でもだんだん突っ込みが追い付かなくなってきた。
そしてそんな優鉢羅を気にせず、更に緋勇は続ける。

「いやあ良いよなぁ、あのガスマスクとか!」

「ガスマスクっ!?」

次に緋勇の口から飛び出したのは凡そ平凡な學園とは無縁の代物だった。

「…一寸待て。今、何だって?」

嫌な汗が背中に流れるのを感じつつ、念の為確認する。

「え?何って…、何が?」

「何が良いって辺りをもう一度言ってみろ。」

「何が良いって…、ガスマスク。」

もしかしたら聞き間違いかもしれない、と淡い期待をしたのだが、やはり緋勇の口から
出た単語は間違いなく、ガスマスクだった。

「それだ。何だそれは。そいつは本当に学生なのか。」

「それを言ったら俺もなんちゃって高校生なんだけどなぁ。それに墨木くんは
視線恐怖症でね。それでガスマスクを常備していて。」

「いや、そこから既におかしい。何でよりによってガスマスクなんだ。もっと身近な物で充分だろう。」

「それは墨木くんがミリタリーマニアだから、かな?」

「突っ込め、誰か突っ込め。」

「良いじゃん。服装なんて個人の自由だし、そう言う優鉢羅だって覆面してるじゃないか。充分怪しいぞ。」

「外して良いなら外すぞ。貴様が泣き出さなければな。…って、お前、まさか俺も
覆面しているから好きだとか抜かすんじゃないだろうな。」

「まさか! 優鉢羅は決め台詞から弱さまで全てが好きなんだよ。」

「……帰って良いか。」

「何で!」


〜数時間後〜


どうにか優鉢羅を引き止めた緋勇。粘り強く話を続けたらしく、気が付けば外の雨も止んでいた。

「…兎に角、これってやっぱり恋だとおもうんだ。…なあ、どうしたら良い?」

長く緋勇の話とよく分からない価値観に付き合わされ、ぶっちゃけ優鉢羅は飽きていた。

「…本人に直接言ったらどうだ。」

もう考えるのも面倒なので適当に答える。因みに視線は窓の外だ。

「直球勝負か…。なんだよ、意外と優鉢羅ってば大胆だなぁ☆」

「違うんだがまあ…、良い。これで気が済んだだろう。俺はもう戻るぞ。」

「ああ、ありがとう。助かったよ。…しかしそうか…、直球勝負か…。」

と、暫し考える様子を見せたかと思うと、すぐに顔を上げ、

「よし、行ってくるよ!」

と叫んだ。

「…決断から行動まで早くないか。もう大分遅いぞ。こんな時間に行ったら相手に失礼だろう。」

「いやいや、思い立ったら吉日って言うだろ? やっぱりちょっと行ってくるよ。」

とすっくと立ち上がって扉に向かう。しかし、戻ると言った優鉢羅が何故か未だこちらを見ている。

「ん、何? 優鉢羅。見送りでもしてくれるの。」

「いや…。実際その墨木とやらに何と言うのかと思ってな…。」

「嫌だなあ、優鉢羅。俺ってば元祖ラブハンターだよ? 口説き文句なら任せてよ。」

「何を任せるんだか知らんが、そうか。」

「そうそう。それじゃ!」

「…それと、もう一つ気になったんだが。」

「んもう、何さ。折角勢いに乗ってるのに。」

「いや…、氏神。お前、意気込むのは良いが、そいつの部屋は知ってるんだろうな。」

と尋ねてみるとピクリと緋勇の動きが止まった。

「…………。」

「……知らないんだな?」

「う、優鉢羅。ちょっと調べてき…、」

「断る。」

緋勇はその場に力無く崩れ落ちた。


月光の底と遺跡の底

優鉢羅は呟いた。何故俺はこんなところに…? と。
気が付けば辺り一面雪景色。周りには緋勇、九龍、そして取手が居る。

そう、ここは遺跡の地下七階。ストーリー上で説明すると丁度トトの居る階だ。

「……何故。」

もう一度優鉢羅が呟く。何故か鳩尾に鈍い痛みが走る。そこに優鉢羅に気付いた緋勇が声をかけてきた。

「おっ、優鉢羅おはよう。いや、ここはこんばんは、かな?」

「氏神…、ここは何処だ。何故俺は此処に居る。」

嫌な予感を感じながら恐る恐る緋勇に訪ねる。

「うっわ、怖いなぁ。優鉢羅、寝起き悪い?」と、言ったのは九龍。

「かなり不機嫌みたいだね。」そしてこれは緋勇だ。

「…寝起き?」

さっきから言葉を発する度に鳩尾が痛む。

「あ、あの…。さっきまでの事、覚えていないのかい…?」

恐々尋ねる取手。さっき と言いかけたその瞬間、優鉢羅はバッチリ思い出した。つい先刻、夜会とやらから
帰ってきた緋勇がいきなり「今日は俺も遺跡に行く!」と言い出したのだ。別に優鉢羅にとって損な事は無いので、
(そもそも事故とはいえ、仮にも主人公がストーリーを進めないのはマズいだろう)勝手に行け、と見送ろうとした時。
緋勇の後ろに付いて来ていた九龍が「今日行く遺跡は寒いからな、優鉢羅にはうってつけだって。よし、一緒に来いよ。」などと
言い出したのだが、この暴走従兄弟達の相手は本当に面倒なので、同行を拒否すると間髪入れず緋勇の拳が優鉢羅の
鳩尾に決まったのだった。そしてそこから今現在まで、記憶は無い。

「…氏神…。」

青い顔を一層青くしてキッと緋勇を睨み付けるが、緋勇本人は全く悪びれた様子もなく、

「いやだって寒いと思うように動けなくて不利だろう? その点、優鉢羅は寒さなんてへいちゃらだし、有利だと思ったんだよ。」

などと抜かした。だからといって間髪入れず人の(龍神の?)鳩尾に拳を決める奴は普通、居ない。
しかし緋勇達は怒る優鉢羅を置いてそのまますたすたと歩き出してしまった。

「いや〜、ほんとは天香學園のマト○ックスこと、皆守くんにも来て欲しかったんだけどねえ〜。…ほら、優鉢羅、早く早く。」

と、緋勇が落ち込む優鉢羅を急かす。と、そこで皆守で思い出したのか取手も九龍に向かって話しかけた。

「そういえばそうだよ、はっちゃん。皆守君が居れば攻撃を避けてくれるから、大分助かるのに、どうして呼ばなかったんだい?」

「…海藻が居ると鎌治とゆっくり喋れないからな。」

「…え、はっちゃん、それって…。」

「鎌治…。」

「いやあ、九龍と取手くんはラブラブだな!」

「…氏神…。従兄として良いのか? あれで。」

「良いんだよ。ああやっていつかは俺の下から巣立って行くんだから…。」

と大袈裟に緋勇が嘆くふりをすると九龍は慌てた口振りで必死に弁解する。

「ひ、緋勇さんっ、俺はいつでも貴方と共にですよ、むしろonly you!?」

「バカだ…。」

「はっちゃんは緋勇さんが本当に好きなんだね。」

頭を抱える優鉢羅。そして楽しそうに笑う取手。


そうこうしてるうちに雑魚や仕掛けを退け、墓守ことトトの待つ部屋に辿り着いた。

「緋勇さん。気を付けて下さい。ここのボスは結構手強いですよ。」

と、九龍が忠告する。この辺りは流石一周目主人公と言ったところか。緋勇も神妙な面持ちで頷くと

「そうか…。トト君は俺達が相手になるとして、問題はそっちか…。よし、優鉢羅、そっちは任せた!」

「なっ!?」

突如話を振られて驚く優鉢羅。それに更に追い討ちを掛けるかの様に緋勇がまくし立てる。

「がーんばれ、負ーけんな! ほら、正体現せば余裕だって、なっ! 龍神様!」

またこういう時だけ優鉢羅の元来の姿を持ち出すのだ。

「う、氏神っ! 貴様、さては最初からそのつもりで俺を連れてきたなっ!」

ハッと気付いた優鉢羅が叫ぶ。

「いやまさか!」

「嘘を吐けっ!」

「あの、緋勇さん…。」

と、ここでおずおずと取手が口を開く。

「はっちゃんや僕もサポートするし、別に優鉢羅さん…だっけ?(うろ覚え)だけに任せることは無いんじゃないかな…。」

「…優しいなあ、鎌治は。」

ここで九龍がしみじみと頷く。

「でもなあ、優鉢羅が正体現したら、寧ろ俺達も巻き込まれる危険があるんだよね。」

「? そのさっきから言っている正体って何のことだい…?」

「まあそれは追々分かるよ。俺達はあくまでトト君を助けてあげれば良いんだよ。」

「あ、さては緋勇さんもトトが気に入りましたね?」

「まあねー、何か可愛いよね、あの子。」

「ですよね!」

「全くだ。でなきゃ風呂上がりにわざわざこんな寒い所来ないって。」

「好感度のためならば、ですもんね、緋勇さん!」

「だな! 九龍!」

完全に二人だけで盛り上がる暴走主人公ズを見つめながら、優鉢羅は自分の感情がスウ…ッと冷めていくのを感じた。

「…本気らしいな、氏神。」

「まあね☆…って、う、優鉢羅? な、なんか怖いよ?」

と改めて優鉢羅を見て緋勇がギョッとする。当の優鉢羅はさっきまで怒鳴っていたのが嘘の様に静かだ。
よく見ると目が座っている。―それ程までに優鉢羅は(本当に静かに)怒っていた。

「う、優鉢羅? 大丈夫?」

「…良いだろう。本来の姿に戻ろうではないか。」

「…え?」

予想外の返答に思わずキョトンとする緋勇。しかし、更に優鉢羅は言葉を続けた。

「但し、氏神。……貴様等も纏めて氷像にしてやるっ!」

ここで一気に優鉢羅の怒りは爆発した。

「ひ、一括りー!」

「ほら、元の姿に戻るぞ。しかしこんな狭い所で戻って、下手に力なんぞ使ったら…、遺跡が崩れるかもしれんな!」

真顔で言う優鉢羅に(しかもちょっと笑っていた)皆、声にならない悲鳴を上げる。
と、そこに運が良いのか悪いのか、

「ドシマシタ? 待チクタビレマシタヨ。トットト入ッテ来テクダサイ。」

と、トトが文句をたれながらひょっこり顔を出すもんだから、

「逃げるぞトト! ここは危険だー!」

「エエ!? ナ、何デスカー!?」

皆、トトを抱えてダッシュで逃げ出した。――が、しかし。

「…逃がすかっ! ――ひゅるうううっ!」

すかさず優鉢羅は元に戻ると、例の鳴き声(?)を発し、ここぞとばかりに力を発揮する。
途端、ピシィッと乾いた音が響く。雪がちらほらと舞っていただけの辺り一面が、優鉢羅の力によって
全てが完全に凍り付いたのだった。


―後日、緋勇や九龍。そして取手やトトまで巻き添えを喰らって皆、風邪で寝込む羽目になったのだった…。


六番目の小夜子…と九番目の御門

「う、優鉢羅っ! これ見てよ!」

ある晩、緋勇がHANT片手に駆け寄ってきた。その顔色は真っ青だ。

「…今度は何だ。というかお前、まだその機械、従弟に返していなかったのか。」

優鉢羅がウンザリしながら言った。緋勇は反論しながら、尚HANTを見せてくる。

「良いんだよ、これは借りてるんだから。…って、今はそんな事より、見てこれ! 都市伝説! 都市伝説!」

「…はあ?」

良い歳こいて、こいつは一体全体何を言っているのか。呆れ声を上げる優鉢羅。

「知らないの? こう電話でいきなり『もしもし、あたし○○ちゃん。今貴方の後ろに居るの。』とか怖い事言ってくるやつ。」

と、緋勇が頼みもしないのに、ご丁寧に説明してくれる。

「それがどうした。」

「だから見てって!」

じれったそうに叫ぶと、緋勇はHANTを優鉢羅の眼前にズイと突きつけてきた。いつまでも喚かれても
うざったいので、優鉢羅が渋々HANTに目をやると…。

『もしもし、私ゲートキーパー。今真っ黒なリムジンから下りたところなの。』

…と画面には簡単な文章が書かれていた。

「……。何だこれは。」

「だから、都市伝説。」

「…馬鹿な。単なる悪戯だろう?というか、メールに『もしもし』も何も。大体、毎日のように
遺跡の化人共と戦ってる奴が、たかがメール一つに驚いてどうする。」

と、突っ込みながら眼前のHANTを退ける。しかし緋勇の顔はやはり曇ったままだ。

「いや、でも嫌な予感がするんだよ…。トトくんの時のメールも、あれはあれで怖かったけどさ。
これは特に名前辺りからどっかで感じた嫌な《氣》をビンビンと感じる!」

「…何?」

メールから《氣》とはまた、器用な。と突っ込もうとしたその時、そこに突然アヴェマリアが鳴り響いた。
HANTにメールが届いたのだ。緋勇が恐る恐る中身を開くと、そこには

『もしもし、私ゲートキーパー。今貴方の寮の前に居るの。』

と、書いてあった。

「ち、近付いてきてるー!!」

姿の見えない恐怖に怯える緋勇。そんな緋勇を見て呆れる優鉢羅。そこに再度アヴェマリアが鳴り響く。

「きっ、来たぁ! ゲートキーパーだっ!」

緋勇はビクッと体を震わすと、そう言うなりHANTを投げ出し、ベッドに潜り込んでしまった。

「…お前でも怖いものがあるとはな。しかし良いのか? この機械は借り物なんだろう? 無碍にするんじゃない。」

と、優鉢羅が悠長に言いながら床のHANTをひょいと拾い上げる。ふと機械に目を落とすと、緋勇が投げた際、
何処かボタンを押したらしく、メール本文が開いている。それになんとはなしに優鉢羅が目を通してみると、

『もしもし、私ゲートキーパー。今貴方の部屋の前に居るの。』

と書いてあった。――すると突然、ドアノブが凄い勢いでガチャガチャと回りだしたではないか!

「――!?」

流石の優鉢羅も驚いて扉に目をやる。

「げ…、ゲートキーパーだ! ゲートキーパーが来た!」

すっかりビビっている緋勇。パニックの余り、思わず叫ぶ。

「助けて醍醐ー!」

「誰だ、醍醐!」

優鉢羅も目線はドアノブにやったまま、律儀に突っ込む。すると急に激しく音を起てていたドアノブが突如ピタリと止んだ。

「…何なんだ、一体…。」

悪戯にしては手がこんでいる。しかし人の気配なぞしなかったぞ、と優鉢羅は思った。暫く気を張っていたが、
再度何か起こる気配も無いようなので、ここで漸く緊張を解く。

「…どうやら、終わったみたいだな。」

「…ほんと?」

緋勇がベッドから顔を出し、ホッと一息吐いた途端、頭上から声が聞こえてきた。

「…お久しぶりですね。」

「っわー!?」

慌てて緋勇が布団から這い出すと、そこには

「何ですか、『わー』とは。折角人が忙しい中出向いて差し上げたのに。」

「お、お前は…、御門!?」

そう、緋勇の頭上にはかつての仲間の一人、陰陽師の御門が立って…いや、浮いていた。

「何で貴方様がいらっしゃるとですかー!?」

「氏神…、日本語がおかしくなってるぞ。」

しかし、おかしいと言えば確かにおかしい。先程確認した際、確かに人の気配は無かったのだから。

「ああ、何故気配がしなかったのか気になりますか。」

と、御門が心を読んだかの如く、思っていた事をズバリと当てる。

「……もしや、式神か?」

ふと、優鉢羅が思い付いた考えを言ってみる。

「そうです。さっきも言いましたが、私はあなたとは違って、本当に忙しいのでね。代わりに式神を送ったんですよ。」

と、緋勇を見下ろしながら例の顔で笑った。

「そ、そんなに忙しいなら無理して来なくたって…!」

ブルブルと震えながらも勇気を振り絞って、何とか反論する緋勇。

「いえ、何処ぞの誰かさんに貴方が此処に居ると聞きましてね。」

「…?」

誰だ? と、緋勇も優鉢羅も首を捻ったが、この《何処ぞの誰か》とは後日判明する事となる。

「これは是非、一度ご挨拶に伺わないと、と思いまして。」

と、御門が如何にも取って付けた様な理由を述べる。

「そ、そんなに気を使わなくったって…。」

「いえいえ、私も一応《依頼人》ですから。ここはキチンとしておきませんと。」

と、此処で御門が意味深な言葉を言う。

「い、依頼人? 何の。」

どんどん後ろに下がりつつ、何とか話す緋勇。気が付けば優鉢羅の後ろまで下がっていた。
一体過去にこいつに何があったのかと優鉢羅は疑問に思ったが、これもまた新鮮で愉快だったので、
黙って事の成り行きを観ていた。そして御門の口から大変な事実が告げられる。

「おや、気付きませんでしたか? 私も《ロゼッタ協会》に依頼を出している一人なのですよ。」

驚く緋勇。(この時顔色は青を通り越して蒼白だった。)

「ンなっ!? そ、そうなの? 優鉢羅!」

と、優鉢羅に尋ねる緋勇。実は(というか何というか)大半の依頼は優鉢羅がこなしているのだ。

「む…。そ、そう言えば確かに見たような…。」

急に話を振られ、驚きつつも記憶を辿ると、確かにこんな奴が居たような気がする。

「お分かりですか。これからもよろしくお願いいたしますよ。ねえ? 《宝探し屋》さん。」

と、最後に御門がトドメの一撃を放った。

「い…、嫌ぁあ〜!」

「では私は帰ります。表に車を待たせてあるのでね。」

「式神使っておいて車か!」

流石優鉢羅。こんな時でもきっちりと突っ込む。

「そっちのがプレッシャーを与えられると思いましたので。」

「ぎゃあ! 確信犯!」

「成る程…。」

「ううう、優鉢羅ぁっ、成る程って、感心しないでっ! ちょっと!」

「ふっふふふ。ではまた。」

と、完全にパニクる緋勇を置いて、とっとと御門は(ドアから)帰ってしまった。

「嗚呼…、逃れらんないのか…。」

がっくりとうなだれる緋勇。そんな緋勇を冷たく見下ろしながら、優鉢羅は言い放った。

「…余程過去に嫌な目に遭ったみたいだな。…まあ、俺は見ていて楽しかったがな。」

「優鉢羅ぁっ! 愛が痛いっっ!!」

と、今度こそ完全にへたり込む緋勇だった――。

ねらわれた学園……スケールちっちゃいとか言うな


「えーと、今日は夷澤くんと戦うんだっけ?」

と、緋勇が九龍から貰った一周目メモを見ながら確認する。

「そうですよ、緋勇さん。まあ他にも学園を支配するだのとスケールのちっちゃい事抜かす怪人や、
例の如く馬鹿デッカい奴とも戦うんですがね。」

「ああ、ファントムとかいうあれ? あ…。へえ、夷澤くんはボクシング部なんだ。
俺と同じ様に拳で戦うんだね、わあ、楽しみだなぁ。」

と緋勇が楽しそうに笑うとそれを見た九龍が嫉妬の炎を燃やす。

「ななな、お揃いぃ!? おのれ駄メガネ! 羨ましい…じゃなかった。緋勇さんと比べたら、
あんな駄メガネなんて敵じゃないですよ!」

「でも拳から冷気が出るなんて凄いじゃないか。良いなあ、冷気かあ…。それに音速の拳ってのがまた凄いなあ。」

「あんなん自称ですよ。誇大広告。それに緋勇さんだって《氣》を発せられるじゃないですか。充分凄いですよ。」

「そうかなあ、普通だよ。」

「普通ですか…?」

流石の従弟もちょっと首を捻ったが、そういう九龍の周りも何だかんだでビックリ人間のオンパレードだと言う事を
忘れてはいけない。

「だって俺の周りにはそういう奴等がいっぱい居たし…って、エックシ!」

と、此処で緋勇が大きなクシャミを放つ。

「あれ、緋勇さん。風邪ですか?」

「うーん、誰か俺のこと噂してんのかなあ。」

と、お約束の台詞を吐きつつ、鼻を擦っていると突如後ろから声が聞こえた。

「――それは霊達の囁きかもしれませんね。」

「ひいぃっ!!?」

慌てて振り向く緋勇と九龍。するとそこには弓道部部長兼、会計委員の神鳳が居た。

「か、神鳳くん…! 急に話に混ざってくるの止めてッ!」

涙声で反論する緋勇を冷静に見つめる神鳳。

「嫌ですね、僕を呼んだのは緋勇さんじゃありませんか。」

「確かにそうなんだけどさ…。」

「神鳳部長…。いつの間に?」

「そうですね、『駄メガネ』云々の件辺りからですかね。」

「そ、そんなに早くから…。」

おいおい、ならもっと早く声かけろよ……と言いかけた時、神鳳が口を開く。

「いえ、ノックはしたんですよ。ただそちらが気付かない様子でしたので。まあ帰ろうとも思ったんですが、
人を呼びつけておいたんですから、余程大事な用なんだろうと思い直しまして。失礼とは思いつつもお邪魔してしまいました。」

「…ご、ごめんよ、気付かなくて…。」

「いいえ、お気になさらず。」

ニコニコと笑う神鳳を見つめていると、駄目だ、この人にだけは逆らえない。と重たい空気が語っている。

「…ちょ、ちょっと緋勇さん。良いですか?」

「ん?」

と、そこで九龍が緋勇の袖を引っ張り、部屋の隅へと連れて行く。そしてやや小声で尋ねた。

「緋勇さん、部長の事…、もしかして苦手なんですか?」

「う。…何かね、苦手って言うか、昔の仲間にああいう雰囲気の奴が居てね。
ちょっと前回の一件でトラウマ再発しちゃったもんだから、つい…。」

「じゃあ何で呼んだんですか。」

「…苦手克服…。」

「…成る程。」

かく言う自分もそうなのだから従兄の答えに何か納得せざる得ない。

「っていうか優鉢羅! 神鳳くんが来てるなら教えてくれれば良かったのに! …優鉢羅?」

ここで怒りの矛先は天井裏に居るであろう優鉢羅に向かって叫んだ。しかし返事はおろか、
気配すらない。

「……あれ、返事がありませんね。」

「優鉢羅ー? …おかしいな、ちょっと見てみるね。」

と、此処でゴソゴソとイスに登って天井裏を覗いた。

「緋勇さんはどうしたんですか? 突然天井裏なんか覗いて…。」

「…気にしないで。」

神鳳の言う事も尤もだが、まさか天井裏に人(?)が居るんですよとも言えずに言葉を濁す。
そんな視線を気にもせず緋勇は天井裏を見回した。

「優鉢羅ー、ねえ、優鉢羅ー? …あ、何かメモ。」

と、そこにポツンと小さな紙切れが一つ。それを手にとって眺めると――、

〜急用が出来た。一旦あちらに戻る。序でに、焔羅様に土産を幾つか持っていく〜

…と、短い文章で書いてあった。

「優鉢羅ー! さり気なく爆弾発言! よく見るとオーパーツが幾つかなぁい! ……うわっ!」

余りのショックにそのままイスから転げ落ちる緋勇。

「落ち着いて下さい、緋勇さーん!」

慌てて九龍が駆け寄ると、緋勇はそのまま床に力無く崩れ落ちた。そしてボソリと呟く。

「優鉢羅が居ないだなんて…。俺、新天地に一人ぼっちじゃないか…。…何か寂しい…。」

「転校してきて数ヶ月経った上に物語も佳境に入ったってのに新天地って事は無いでしょう。」

状況はよく分からないが表情も変えずに突っ込む神鳳。しかし九龍は怒りの炎をめらめらと燃やし、叫んだ。

「おのれあの蛇…! 緋勇さんを泣かせるなんてふてぇ奴…! っていうかそこまで緋勇さんに想われてるなんてああ羨ましい!」

「似た者従兄弟ですねー。…どうでも良いですが、早く行きませんか? 夷澤が待ってますよ、きっと。」

と、またもや神鳳の冷静なツッコミが飛ぶ。

「…どうでも良いって…。」

「…部長…。」

ちょっと傷付いた顔をする暴走従兄弟’s。しかし気にもせず神鳳がはっぱをかける。

「さあ行くんですか? 行かないんですか?」

「…そうだね、うん。折角神鳳くんが来てくれたんだし、行こうか。」

「緋勇さん…。」

こうして、漸く重い腰を上げ、遺跡へと降りたのだった。


〜経つ事暫し数時間〜


例の如く罠や化人を適当に退け、遺跡の奥まで進む三人。そして待ち構えてたのはやっぱりファントム。
これまた適当に緋勇の拳と九龍の暴言(例:学園乗っ取るとかってスケールがちっちぇえんだよ、バーカバーカ!)
そして神鳳の弓によって漸く意識を取り戻す夷澤に緋勇は呼びかけた。

「―夷澤くん! しっかりして!」

「うう…、此処は何処だ? 俺は一体何を…。」

未だにぼんやりとするのか頭を頻りに振る夷澤。しかし取り付いていた《念》はしっかり離れたようだ。

「夷澤くん、何も覚えてないの?」

不安げに緋勇が九龍を見る。一周目主人公である九龍が丁寧に解説してくれる。

「あ〜、これはですね。荒吐神、っつうやつの《念》って言うんですか? 
そんなのが取り憑いてたんですよ。しかも大分前から。」

「じゃあ今それが離れた訳だ。良かったねぇ、夷澤くん。」

緋勇が嬉しそうな笑顔を夷澤に向けると、漸くハッキリしてきたらしい頭で夷澤が睨み付けた。

「は? あんた、誰ッスか。…待てよ、そうだ。あんた、緋勇龍麻でしょ、噂の転校生の。」

「…本当に大分前から取り憑かれていたんだねぇ。」

「衝撃の事実ですよねぇ。」

流石に言葉が出ずに苦笑いをしていると、横から神鳳が口を挟む。

「ちょっと良いですか?」

「…かか、神鳳くん、どうしたの。」

「何でどもるんですか。…まあ、良いでしょう。夷澤、ちょっと来なさい。」

と、ちょいちょいと手を招いて夷澤を呼ぶ。

「…何スか。」

警戒しつつも夷澤が神鳳の前まで行くと、神鳳が夷澤の肩を埃でも掃うかのようにはたいた。

「ポンポン…っと。はい、良いですよ。」

「? な、何をしたんでスか。」

「…え? ああ、いえいえ。気にしないで下さい。」

いぶかしんで夷澤が尋ねると神鳳は何でもないと手を横に振る。しかしそんな説明で
納得出来る訳が無い。

「何スかそれ、めちゃくちゃ気になるじゃないですか。」

「いえ、聞かない方が幸せですよ。」

「えー、部長。俺達も気になるなあ。」

更に詰め寄ると緋勇や九龍も混ざってきた。確かに気にするなという方がおかしいだろう。

「そうですか? じゃあ九龍君と緋勇さんにだけこっそり教えますね。」

「やったあ!」

「良いですか? 耳を貸して下さいね。――で、――の、――で。」

「ふんふん。」

と、三人輪になり、ヒソヒソと話をしている。完全に当人である夷澤は蚊帳の外だ。

「…ねえ、ちょっと。」

「…という訳だったんですよ。」

「うわあ、神鳳くん、それ本当?」

「部長すっげぇ〜!」

「いえいえ、これも夷澤の為ですよ。」

「…放置プレイかぁあっ!!」

流石に怒りを爆発させる夷澤(当然と言えば当然だが)しかしそんな夷澤を九龍は冷やかに見つめる。

「何、駄メガネ。混ざりたいの?」

「放置プレイだなんて人聞きの悪い。僕はただ夷澤の為を思ってですね。」

「嘘吐けぇえ!」

「まあまあ、落ち着いてよ夷澤くん。ね?」

流石に可哀想になったのか此処で緋勇が夷澤を宥める為に近付くと、夷澤はキッと緋勇を睨み、
言った。

「畜生……。そうだ、おい! あんた…。緋勇だったよな? 俺と闘ってくださいよ、俺の実力を見せてやる!」

「お、脇道には逸れたけど本題に戻ったなあ。」

「あ、闘う? 良いけど、じゃあ行くよ?」

一人興奮する夷澤だが回りは完全に遊んでいる。しかしまぁ結局戦う事は避けられないので、
ここはストーリー通り、夷澤と戦う事にした。


〜数分後〜


「…生きてますか? 夷澤。」

床にぶっ倒れた夷澤を心配してるのかしてないのか分からない表情で神鳳が見下ろす。
そう、夷澤は魔人の醍醐戦(@二話)よろしく完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

「…何だあいつの技…。普通じゃねぇ…。」

「いやぁ、照れるよぉ。」

夷澤が悔しげにぼやくと噂の本人である緋勇が頭をかきつつ戻ってきた。

「あ、お帰りなさい。ニニギはどうしました?」

「うん、今九龍がバッチリ倒してくれた。」

そこに九龍がタイミング良く戻ってくる。その顔は中ボスを倒した達成感と従兄への
誇らしげな気持ちが分かる笑顔だった。

「どうよ、駄メガネ。緋勇さんの凄さ分かったか?」

「こーら、九龍、あんまり茶化さない。夷澤くんも充分強かったよ。久しぶりに拳とやり合って、楽しかった。また闘おう。」

茶化す九龍を軽く嗜めると、改めて夷澤を起こし、敬意を払う。緋勇にとって拳のみで戦うというのは
恐らく壬生以来だったのだろう。表情はまるで子供のように晴れやかだった。

「…緋勇、センパイ…。ま、まあ、そこまで言うんならしょうがないッスね。」

相手の毒の無さと臆面もなく言い放った台詞に思わず紅くなった顔を背ける。そして
精一杯の強がりを言ってみせた。

「お〜、流石、元祖ラブハンターですねぇ。お見事です。」

「良いな、駄メガネ…。」

「いやぁ、そんなに褒めないでよ。…あ、プリクラ頂戴。」

やんややんやと褒め称える周り。そして急に素に戻ってプリクラを強請る緋勇。
仲間になって当然と言わんばかりだ。

「…何か騙されてる気が…。」

と、夷澤がぼやいたのも強ち間違いではないかもしれない。


〜その後、自室〜

漸く地上に戻り神鳳と夷澤と別れると、満足感に浸りながら緋勇と九龍は自室のドアを開けた。

「ただいま〜。」

するとそこには優鉢羅が帰ってきていた。手には幾つか荷物がある。

「む、早かったな。」

「あ、蛇!」

「……優鉢羅。」

「何度言えば良いんだ、蛇じゃない。……? どうした、氏神。」

呆然と入り口で立ち尽くす緋勇に声をかける。すると緋勇はタッと優鉢羅に駆け寄る。

「会いたかったよ、優鉢羅っ! ――オーパーツ返せっ!」

「――ぐふっ!」

と、此処で緋勇の鉄拳が鳩尾に決まった。どうやら大分立腹していたらしい。
緋勇は仰向けに倒れた優鉢羅を無理やり起こすと、一気にまくし立てた。

「オーパーツ返せ。さあ返せ、今すぐ返せ。でないとお前の大事な何かを奪う。」

「ひひ緋勇さん! 何言ってるんですか!」

「……何だその理屈は。返すも何も、もう無いぞ。焔羅様と司命司録に置いてきたからな。―太陽石とか。」

怒気を孕んだ緋勇に怯みもせず、優鉢羅はサラリと言い返す。

「ななな、何ぃっ!」

「落ち着いてください緋勇さん! 太陽石ならクエストでパクったりして、俺が手に入れてきてあげますよ!」

「…優鉢羅…。」

怒りの所為でむしろ涙声になりつつ優鉢羅を睨む。すると突然優鉢羅が荷物の一つを手に取った。
そしてその荷物を緋勇の眼前に出す。

「ああ、そうだ。ほら。」

「…?」

一瞬怒りを忘れ、何じゃこりゃ、と緋勇が首を傾げる。

「土産だ。…水饅頭。」

「……え。」

そう言って優鉢羅が緋勇に荷物を手渡した。

「好きだろう? 水饅頭。違ったか?」

「―優鉢羅っっ! お前良い奴だなー!」

緋勇は暫し呆然と手の中の和菓子と優鉢羅の顔を見比べていたが、突然顔をくしゃっと歪め、
優鉢羅にひしと抱きついた。

「うあ、優鉢羅ずっこいー! 緋勇さんに抱きつかれるなんて!」

「…なんだかな…。」

しかし一体この和菓子は何処から買ってきたのか、そして優鉢羅が素で買いに行ったのか等、
突っ込む者は居ないまま夜は更けたのであった――。

夕ばえ作戦…とビデオレター作戦
其処に見えるのは二つの黒い影。すると影の一つが口を開いた。

「…では、“彼”は確かに彼処に居たのですね…?」

二つ目の影も口を開く。

「ああ…。確かに居た。」

黒い影がそこでくくっと動いたかと思うと

「あーっはっはっは!」

と、突然笑い出した。

「はっはっはっはっは!」

つられてもう一つの影も笑いだす。

「まあ壬生。コタツにでも入れ。」

「すみません、お邪魔します。」

と、此処でコタツに入る黒い影こと壬生と如月。

「…で? どうなんです? 彼…、緋勇君は元気でやってるんですか。」

「ああ。この前なんか劉や御門に教えたらすっ飛んでいったねえ。」

「しかしまあ、また高校生やってるとは。本当に彼は不思議な奴だ。」

「そうそう、この前なんかね。どうやら遺跡で取れる食材で料理を作るのにハマったらしくて、
従弟と山の様に作っていて皆に青い顔をされていたのを見かけたよ。」

「そいつは見たかったですね。」

「……。」

「……。」

と、ここで二人とも黙ってしまう。

「ちょっと行ってくる。」

「如月さん、このビデオを是非。」

と、いそいそと席を立つ如月、そしてそれに追い討ちをかけるが如く何処からかビデオを
取り出し、手渡す壬生。そうして一つの影が消えた……。


〜學園内プールにて〜

「おい、氏神。」

夜の構内散策をしていた緋勇と優鉢羅。丁度プールに行った時のことだった。
今まで緋勇の後ろを歩いていた優鉢羅の足がピタリと止まる。

「ん? なあに、優鉢羅。」

「俺達以外にも誰か居るぞ。」

「ああ、やっぱり気付いてた? いやね、分かってはいたんだけどさ。放っておいてたんだよね。」

緋勇は前もって気付いていたらしいが、どうやらあまり関わりたくないようだ。

「いい加減追い払え。気になって仕方がない。」

「しょうがないなあ。え〜と、…ほい。」

優鉢羅に促され、仕方なくその辺に落ちていた塩素をポチャンとプールに投げる。
すると――、

「亀急便です。」

「…何やってるの、如月。」

水面からザパリとビデオ(防水加工)を構えた亀忍者こと如月 翡翠の姿が出てきた。

「やあ、久しぶりだね。」

「不法侵入だぞ。ついでにそのビデオは何だ。」

挨拶もそこそこに間髪いれず突っ込みを入れる緋勇。しかし如月はというとケロリとして

「いやね? これは壬生に頼まれたんだよ。」

と、言った。

「壬生に…?」

「兄弟子である君がどうしているのか、彼なりに心配しているんだよ。さあ、笑顔でこっち向いて。」

そう言ってビデオをくるりと向ける。

「…ってちょっと待て! 何で壬生が俺が此処に居るって知ってるんだ!」

「何でって―。」

「まさかこの間の劉の突然の手紙や御門の訪問も…っ!?」

「ああ、教えた教えた。」

「如月ぃ――っ!!」

そう、御門の言っていた《何処ぞの誰か》とは如月の事だったのだ。

「何だか貴様の知り合いって、こんなんばっかだな。」

と、優鉢羅がポツリと感想を洩らす。

「如月っ! 寄りによって何で御門に…っ!」

「いや、たまたま君の話題が出てな。――お茶の間でお茶しながら。」

「お茶の間でお茶を飲みながらっ!?」

「いやあ一周目主人公である君の従弟君から亀急便はお世話になっているんだけどね、まさか君に此処で会えるとは。」

「じゃあ初めて亀急便を頼んだ時! 『亀急便でございますぅ〜。』って聞こえた爺ちゃんの声は!」

「ああ、それも僕だ。」

「お前かぁあ〜! 普通に! 普通に入ってこ〜い!」

「だって一話で会ってしまったら面白くも何ともないだろう?」

衝撃の事実(?)に落ち込む緋勇とは逆に如月はというとケロリとしている。
しかし此処で緋勇は如月をキッと睨むと叫んだ。

「言いふらしてやる! 亀急便はぼったくりだって朱日ちゃんに言いふらしてやる!」

「因みに彼女も協力体勢だ。HN見なかったか? パーミリオンサン。」

「言いふらす意味無ぇえ!」

しかし反撃も露となってきえた。手強いぞ、亀忍者!

「じゃあビデオも残り十分を切ったから。皆にメッセージを言ってくれ。」

「皆って…、壬生だけじゃないのかっ!?」

「いや、今度皆で集まる機会があってな。その時に…。」

落ち込む緋勇に更に追い討ちをかけるが如く、如月がサラリと恐ろしい事を言う。

「う、うわあぁあ〜っ! み、壬生! 知ってるんだからな! お前が何回かプリクラを撮りに行っては
それが女子高生の間で有名になってるって事を! 言いふらしてやるー!」

とっさに壬生に対しての悪口(?)を言ってみるが

「大して効果無いんじゃないかなあ、壬生だし。」

と、サッパリ効果が無かった。と、此処で緋勇がハッとする。

「はっ、と言う事はこのビデオが桜井や醍醐にも見られるって事じゃ――。」

「あ、テープが切れた。じゃあ、そういう事で。」

「ぎゃーっ!」

慌ててビデオを止めようとするがプツン、と音をたててビデオが止まる。
そして如月はビデオを懐にしまうとUターンし、

「それじゃあ、皆によろしく言っておくよ。暫らくはこの學園に居るんだろう?」

そう言って立ち去ろうとする如月の肩を緋勇の手がガッシと掴む。

「待て。」

「…何かな。」

うっすらと笑いを浮かべる緋勇に流石に怖いモノを感じ、思わず逃げ腰になる如月。
緋勇はズイッと手を前に出すとこう叫んだ。

「プリクラ! 知ってるぞ、さっき此処に来る前にロビーで撮ったんだろう? プリーズ、プリクラ! カモン、バディ!」

「……ちっ、何故それを…。」

「俺だけ犠牲になってたーまーるーかー! こうなったらお前だけでも道連れだー! 人身御供じゃー!」

と、緋勇が高らかに笑う。どうやらキレたらしい。渋々プリクラを出す如月。それを引っ手繰って
高らかに笑う緋勇。この二人を見つめながら一人置いてけぼり喰らった優鉢羅がポツリと洩らした。

「氏神…。こういう時だけ超能力開花するのな。」

一体こいつの高校時代はどんなんだったんだ、と流石に気になった優鉢羅であった――。

暁はただ銀色そしてカレー色

「優鉢羅……。これってもしかしなくてもピンチってやつかい?」

そう呟いたのは緋勇。そう、今まさに副会長こと皆守との決戦を迎えていたのだった。
迎え撃つのは二周目主人公こと緋勇。そして一緒に居るのは優鉢羅と前回から続き如月ことJADEだ。

「だから貴様の従弟が言っていただろうっ! 奴は正面からの攻撃を全て避けるんだっ!」

「だけど九龍はこうも言ってたんだ! カレーを風船に詰めて爆弾にしろ、
そうすればカレー好きの皆守君はそれを全て全身で受け止めるって!」

「だーかーらー、従弟の言う事を全て真に受けるなぁあっ! ガセだ、ガセッ!」

「緋勇、坦坦麺爆弾とかプリン爆弾ならあるよ。」

「それだ如月! ナイス!」

「言っておくが受け止めないぞ、そんなもん。」

と、此処で軽く突っ込んだのは敵である皆守だ。

「……っ! 食べ物で遊ぶなぁっ!!」

と、ヤイノヤイノやっていたら最後には優鉢羅のとどめの突込みが飛んだのだった。
そして皆小休止を取るべく一度向き合った。

「第一、小道具に頼るな! 貴様には拳という立派な武器があるだろう!」

「だって避けられるし。」

「横とか、背後とか回れるだろうっっ!」

正論を言う優鉢羅をよそに緋勇は顎に手をあて、考えるポーズを取る。

「しかしどうしよう、九龍の親友である皆守君に攻撃するなんて出来ないし……。
そうだ! 優鉢羅、ちょっと元に戻って冷たい息でも一発――!」

「結局攻撃するのかとか俺はモンスターかとか色々突っ込みたいなぁ、おい!」

「皆守君とやら。彼等はいっつもこうなのかい?」

「あー、何だかなぁ。」

ギャーギャー騒ぐ緋勇と優鉢羅をよそに如月と皆守はいたって冷静だ。

「お前等早くしないか? 後が支えてるし。」

と、皆守の言葉で我に返る緋勇。

「あ…っと、そうだった。じゃあそうだなぁ…。もう止めちゃおっか? バトル。」

「お前なぁ…。少し位主人公らしいところ見せてもバチは当たらないぞ。」

呆れる優鉢羅を尻目に緋勇は口を尖らせ、拗ねた様な口ぶりで言う。

「だって、皆守君は大事な九龍の親友だもの。戦うなんて出来ないよ。」

「フッ、君らしいな。」

「いや、そこで勝手に綺麗にまとめられると俺も困るんだが。」

さてどうしよう、と皆が首を捻ったその時、

「ふざけるなマイフレンド――!!!」

「かっは!!」

突然九龍の声がしたかと思うと、背後から現れた九龍の蹴りが皆守の背中にヒットしたのだった。

「く、九龍!」

「緋勇さんがっ、緋勇さんが! お前を思って戦うのを止めようと言ってくれているのに!
何が困るだ、何が! ああ!? そんなに戦いたいのならこの銃を腰にお見舞してやるよっっ!」

と、機関銃を皆守の弱点である腰に向かって正確に当てる。すると皆守のHPがビシビシ減っていくのが分かった。

「やっ、止めて九龍――!!」

「相変わらずあいつに容赦ないな。本当に親友か?」

「その筈なんだけど……。」

「くっ……。」

一頻り銃を撃ち、皆守のHPを0にすると九龍は満足気に銃をホルダーにしまった。
そして倒された皆守は、ゆっくりと例の台詞を打ち明け――、

「あ、それは一周目で聞いたから別に語んなくて良いぞ、海草。」

「ひ、酷!!」

と、九龍がスパンと断ち切った。
結局何だか納得行かないまま後を着いてくる事にした皆守。そして一行は更に奥へと進むと、
そこには生徒会長である、阿門が待ち構えていたのだった。

「……遅い、宝探し屋。」

「ごっ、ゴメンよ! 阿門君!」

早速バトルに入ろうとする緋勇を九龍が呼び止めた。

「待ってください、緋勇さん。奴の弱点覚えてますか?」

「えーと、頭のおだんごだっけ?」

「惜しいけど違います。顔です、顔。もービシビシ狙っちゃってください。」

「分かった!」


経つ事数十分、

「よっしゃー勝てたー!」

「皆守の時とは違って大分手際がいいな。」

と、ボソリと優鉢羅が突っ込む。

「最後! 最後は何だっけ!」

「荒吐神です! 緋勇さん!」

「ああ! じゃあ九龍タッチ!」

「はーい! 寿司準備オッケー、剣準備オッケー! 九龍、いっきまーす!」


更に経つ事数十分(スピード行動)、崩れ落ちた遺跡の入り口の前に立ち尽くす緋勇達の姿があった。


「終わった……。」

「終わりましたねぇ、緋勇さん。」

「帰っていいか、おい。」

「じゃあ僕もこの辺で。そろそろ店に戻らなきゃ。」

「あー、アロマが美味いぜ……。」

と、皆が思うことを口々に言う。

「しかし、これで一応ストーリーもお終いですねぇ。」

「そうだねぇ……って、嗚呼―――!!」

と、突然緋勇が叫んだ。

「どっ、どうした、氏神。」

「京一! 京一をすっかり忘れてた!」

「何? 京一君と一緒だったのかい?」

「そうだよ、カイロではぐれてから今の今まですっかり忘れてたよ〜!」

「それはまた随分と忘れていたな。」

「どうしよう〜、京一、携帯なんて持ってないから連絡も出来ないし……。」

「そいつはお前が此処に居る事も知らないんだろう? どうするんだ。」

「とりあえず帰る!」

「ええ、緋勇さん帰っちゃうんですかー! もう少し一緒に居たいですよ!」

と、此処で突如HANTが鳴り響いた。

「おっ、メールだ。はい、九龍。」

「ありがとうございます。何々? えーと……。ええ――っ!?」

「どうしたんだい、九龍君。」

「…俺、網走に行かなきゃならなくなりました……。」

「これまた随分遠いな。」

「う、うわー! 緋勇さーん!」

そう言って九龍が緋勇にひし、と抱き付く。

「じゃあ俺も準備して行くよ、明日辺りにでも。」

「早いな。」

「うん、何となくだけど京一も日本に来てる気がするんだよね〜。」

「……勘か。」

「うん、勘。」

と、あっけらかんと返事をする緋勇に優鉢羅は言葉が出なかった。と、ここを如月が綺麗にまとめる。

「じゃあ帰るか。」

「そうだね〜。あ、優鉢羅も来るんだよ勿論。」

「何でだっ!」

「だって、お前。一人になったらそれこそはぐれ召喚獣だぞ。」

「召喚獣とか言うな。帰れる、帰れるから。」

「良いじゃないか、京一を探すのに付き合ってくれたって。」

「まあまあ、そんな事は置いといて。良いのかい?」

と、如月がやんわりと静止する。

「? 何が?」

「遺跡、崩れてきてるよ。」

そう、今正に遺跡は崩れてきていて、皆守と阿門のちょっと良い台詞が展開されていたところなのだった。

「あー! やばい!ほらっ、帰るよ! 皆守君も阿門君も、そんなとこに突っ立ってないで!」

「え、いやちょっと…!」

「いいから、早くー!」

と、スタコラと逃げ出す中、優鉢羅が最後に突っ込んだ。

「崩壊オチは初めてだな…。」

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